壁から飛び出しなよ

レンガの壁(wall)の前に立っているタキシード姿のマイケルが印象的な同名アルバムのタイトル曲「オフ・ザ・ウォール」。直接的な意味は、「壁から飛び出して」といったニュアンスだ。

それまでシャイで、知らない人となかなか打ち解けられなかったマイケルが、パーティなどで壁に寄りかかってなかなか他の人と和めない場面で、「壁から飛び出しなよ」という意味をもつ。

「壁から飛び出す」「既成概念を打ち破る」「はじける」という、シャイな彼にとっては前向きなアクションを誘う賛歌でもあった。

この曲自体はマイケルを想定して、イギリスのヒートウェイヴのメンバーでプロデューサーのロッド・テンパートンがクインシー・ジョーンズから依頼されて書いたものだったが、まさに当時のマイケルの空気感を描いたどんぴしゃな一曲となった。

マン・イン・ザ・ミラー

マイケル・ジャクソンの生き方、哲学、主張などがひじょうにうまくまとめられた一曲に「マン・イン・ザ・ミラー」がある。

この曲自体はクインシー・ジョーンズの秘蔵っ子の一人でもあるサイーダ・ギャレットとグレン・バラードが書いた曲だが、サイーダが「マイケルに完璧に合う曲が書けた」とクインシーに直訴したという曲。

マイケルもこれをすっかり気に入って、以後のライヴでも必ず歌われるようになり、ある種マイケル本人の「アンセム」(賛歌、テーマ曲)となった。

「世界を変えたいなら、鏡に映る自分からまず変わらないと」というひじょうに普遍的なメッセージをもつ。マイケルが感じていた人種差別、戦争、地球上の問題など、世界を良い方向に変えたければ、まず自分の意識を変えないと、と訴えかける。

31年前のアース・ソング

今から31年も前(1995年)に、地球の温暖化に警鐘を鳴らした「アース・ソング」という曲がある。

温暖化がもたらす地球の悲鳴をマイケルはすでにそのころから独特の感性でキャッチしていた。

この曲のショートフィルムはまさに地球環境の激変、そしてそれに関連する生態系の変化、それがもたらす自然災害あるいは人類への影響などへの警鐘を描く。

元アメリカ副大統領アル・ゴアが地球温暖化問題に警鐘を鳴らし始めたのが2000年代初め、同問題を描いたドキュメンタリー『不都合な真実』が公開されたのが2006年だから、それよりも10年以上早く問題を認識したことになる。

父ジョセフとの確執

マイケル・ジャクソンの伝記映画『Michael/マイケル』が2026年6月12日から日本でも公開された。この中のちょっとしたハイライトのひとつが、父親ジョセフ・ジャクソンとの確執部分だ。

映画をこれからご覧になる方のために、あまりネタバレはできないが、幼少のころに受けた体罰や自我の目覚め、その後、自分の音楽を作りたい、やりたいという欲求が大きくなり、父親と対立していく過程が描かれる。

これまでにも書籍などでその対立などは語られたり、書かれたりしてきたが、そうした状況の一部がリアルに描かれていた。

そして、『スリラー』(1982年11月発売)が未曽有の成功を収めたことで、マイケルはソロ・ツアーをしたかったが、諸事情でジャクソンズとしての『ヴィクトリー・ツアー』(1984年7月~)が行われることになる。

そのあたりは深くは描かれていないが、当時のマイケルの心境は実際どうだったのか気になるところではある。

※映画『Michael/マイケル』公式サイト
https://www.michael-movie.jp/

(集英社クオータリー『kotoba』2026年夏号より一部抜粋し、再構成)

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コトバ編集室
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2026/6/5
1550 円(税込)
228ページ
特集
生きているマイケル・ジャクソン


「キング・オブ・ポップ」マイケル・ジャクソンは、
20世紀のエンターテインメントのあり方そのものを書き換えました。
同時に、彼が楽曲に込めた平和や愛、人種差別への抵抗、
地球環境へのまなざしは、分断と不安が深まる現代において、
以前にも増して切実な響きを帯びています。
なぜマイケルは「過去」にならないのか――。
コトバは、映画『Michael/マイケル』を契機に、多彩な書き手や語り手とともに、
あらためてマイケル・ジャクソンという存在を見つめ直しました。
本特集を通して浮かび上がるのは、単なる「懐かしのスター」ではありません。
いまなお世界に問いを投げかけ、論争を巻き起こす、ひとりの表現者の姿です。
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