目的は「ふくらはぎの圧」を逃がすこと
では、なぜ選手たちはわざわざソックスを切ったり、短くしたりするのか。
大きな理由は、ふくらはぎへの締め付けを減らすためだ。サッカー用のソックスは、すね当てを固定し、激しい動きの中でもずれにくいように作られている。その分、ふくらはぎへの圧迫感が強くなりやすく、試合終盤や暑熱環境では、筋肉の張りや違和感、けいれんへの不安につながることもある。
中村の短いソックスは、まさにこの問題への個人的な対策といえる。ふくらはぎを強く覆わないことで締め付けを避け、足がつる感覚を少しでも減らしたい。田中のようにソックスの後ろ側に穴を開けるケースも、発想は近い。ふくらはぎの筋肉が膨らむ部分に“逃げ道”を作り、圧迫感を軽くする狙いがある。
もちろん、「穴を開ければ必ずけいれんが防げる」と医学的に証明されているわけではない。水分補給、筋疲労、気温、運動量など、足がつる原因は複合的だ。ただ、トップ選手にとっては、わずかな違和感がプレーの判断やスプリントの質に影響する。本人が「これなら動きやすい」と感じるなら、それ自体がパフォーマンスに関わる可能性はある。
一方で、安全面の懸念も残る。ソックスに穴が開いていれば、その部分は皮膚が露出しやすい。相手選手のスパイクが当たれば、擦過傷や裂傷のリスクは当然ある。快適さと保護性能のバランスをどこで取るかは、選手個人だけでなく、審判や大会運営側の判断にも関わってくる。
ルール上、サッカーの競技規則では、選手の基本装備としてシャツ、ショーツ、ソックス、すね当て、シューズが定められている。すね当ては合理的な保護を提供するものでなければならず、さらにソックスで覆われている必要がある。
つまり、「ソックスを着用しているか」「すね当てが覆われているか」「危険な状態ではないか」が重要となる。ソックスに穴を開ける行為そのものを、競技規則が一律に明確禁止しているわけではない。ただし、穴の位置や大きさによって、すね当てが十分に覆われていない、装備として不適切、あるいは危険と判断される可能性はある。
W杯のような国際大会では、競技規則に加えて大会ごとのユニフォーム規定や運用もある。中村が注意を受け、履き替えを命じられたのは、審判団がその日の基準で「そのままでは認められない」と判断したためだろう。装備に問題があると判断された選手は、審判の指示でピッチ外に出て修正し、チェックを受けてから戻ることになる。
一方、田中の穴あきソックスが試合中に問題視されなかったように見えるのは、すね当てが覆われており、審判団が危険または不適切とまでは判断しなかったからだと考えられる。同じ“普通ではないソックス”でも、穴の位置、露出の程度、すね当てとの関係、審判団の解釈によって扱いは変わる。













