「自分が音楽に感動するなんてことは想像できなかった」
甲本ヒロトが音楽の道を志そうと思ったきっかけは、中学時代に聴いたセックス・ピストルズだった。
ピストルズを筆頭にロンドン・パンクのエッセンスは、のちに甲本が結成したザ・ブルーハーツやザ・ハイロウズといったバンドに受け継がれている。
しかし、甲本ははじめから音楽が好きだったというわけではなく、むしろ軽蔑すらしていたほうだったという。
「人前に出てさ、一人前の男が、あんな髪の毛を伸ばして踊って歌うなんて最低じゃんって思ってた。僕、小学校低学年頃からそんな感じ。」
小学校時代はボーッとしているのが好きで、体育と音楽と給食はボーッとできないから嫌いだった。当時、周りからは「ボケサク」、先生からは「グズラ」と呼ばれ、クラスでも影の薄い少年だった。
そんな甲本の価値観を一変させる出来事が起きたのは、中学に入って間もなくのことである。
英語の授業でリスニング用のカセットテープを使うので、家にテープレコーダーを用意しておくようにと学校から言われた甲本は、親に頼んでラジカセを買ってもらった。
そして部屋でラジオを流していた甲本は、それまで体験したことがないほどの衝撃を受ける。
「自分が音楽に感動するなんてことは想像できなかっった。でも、ラジオから流れてきたイントロ一発でもうやられた」
涙が止まらなくなり、叫びたいような気持ちで、興奮を抑え切れなかった。
「いちばん記憶にあるのは、畳をかきむしってたこと。意味が分からないから、自分の部屋の畳をかきむしりながら、ボロボロ泣いてたんですよ」
その日以来、食べ物を美味しいと思うようになり、学校を楽しいと思うようになり、自分の周りにあるものをきちんと認識することができるようになった。














