「自信を持って投げた球を打たれたことがあったか?」ふたりの答えは
江夏も江川も脅威的なボールでグラウンド内を震撼させ、特異なキャラクターだけにグラウンド外でも騒ぎせた。そういった自分の言動ひとつで世間が騒いでしまう状況についてどう感じたのかを聞いてみると、まず江夏が口火を切った。
「間違ってもタイガースが俺を出すなんて、という気持ちがあったんだよね。昭和50年かな、南海にトレードに決まったとき想像以上に世間が騒いでくれた。でも、もっともっと騒げばよかったのにという強気な気持ちと、もう騒がなくてもいい、静かにしとってくれっという不思議な気持ち、この両面の気持ちを持った思いがある」
一方の江川は、「空白の一日」におけるマスコミ報道について、言葉を選びながら慎重に語ってくれた。
「全体的にいうと、物事が起きたときにこちらが発言して、例えば20分話したとしても切り取られて都合の良いように放送されて、こっちの意図がまったく伝わってないなっていうのがよくあったんです。
もちろん原因はこっちにもありますが、発言したことをなんで全部伝えてくれないんだっていう思いに駆られ、自分にも原因があるとは考えてなかったです。若かったですしね。
今になってみると、世の中こういうふうに成り立っているんだってわかり、マスコミの方も仕事をされている以上、新聞を売らなきゃいけないっていう事情は今なら理解してます。
当時はわからないから、関わった人間は責任があるんだろうなっていうふうには思います。ただ、江夏さんのように騒いでくれっていうのは全然なく、早くやめてくれしかなかった」
互いのプロ野球人生においてのエポックメイキングを、無理やり記憶の扉をこじ開けて、ふたりは話してくれた。あらゆるものと切り離されて、たった一人で戦い続けた者同士が感情の機微を少しだけ見せてくれた気がする。
そして最後に、今まで自信を持って投げ込んだ球を打たれたことがあったかという質問を投げかけられると、二人ともが意を決したような顔になった。
「インハイを勝負球にしている以上、打たれたこともあった」と飄々と話す江川に対して、江夏は「打たれたことはない」と頑として言う。
アウトコース低目にビタビタに決めた。江夏の強烈な自負が感じられた瞬間でもあった。
無頼でアウトローの江夏と一流思考の怪物江川。一見に似て非なる二人だが、自分の存在の大きさに振り回されてしまった部分が嫌というほどそっくりだった。だからこそシンパシーを感じ、この二人だからこそ生まれたそれぞれの名勝負は、永遠に人の心の中で輝き続ける。
それが、江夏豊と江川卓なのだ。













