派遣に対する世間のイメージ 派遣会社は本当に必要か?
“企業がコスト削減のために派遣に頼りすぎた結果、雇用が不安定になった”。こうした批判とともに、派遣という仕組み自体を疑問視する声はいまも根強い。その背景には、「派遣=本当は正社員になれなかった人が選ぶ、不安定な働き方」という固定化された世間的なイメージがある。
しかし川上氏は、こうした見方自体が、現在の労働市場の実態とはズレつつあると指摘する。
「派遣社員には大きく2つのタイプがあります。“本当は正社員になりたいが、なれずに派遣で働いている”不本意型と、“派遣という働き方を自ら選んでいる”本意型です。いまも不本意型は一定数いますが、状況は大きく変わってきています。
正社員のまま転職できる環境が整ったことで、『正社員になれないから派遣を選ぶ』という構図は弱まりつつあるのです」
その結果、派遣社員の構成も変化してきた。専門スキルや働く条件を重視し、派遣という働き方を選択する「本意型」の割合は、相対的に増えている。
「少なくとも現在の日本で、雇用全体が不安定化しているとは言えません。実際、2015年の労働者派遣法改正以降、無期雇用派遣は増加してきました。制度面を見る限り、派遣をめぐる雇用の安定性は、リーマン・ショック当時よりも明らかに高まっています」
にもかかわらず、「派遣=不安定」「派遣会社=雇用を劣化させる存在」というイメージだけが、いまなお先行している。その理由のひとつが、「中間搾取」「ピンハネ」といった言葉で語られがちなマージン構造だ。
「たとえば時給1500円の派遣社員の場合、派遣先に請求する2150円ほどの金額には、有給休暇の原資や社会保険料、採用広告費、人事・営業コストなどが含まれます。業界ではマージン率30%前後が一般的ですが、最終的な派遣事業者の営業利益は1%程度にとどまることも少なくないんです」
実際、人材派遣会社の倒産理由で目立つのは、“派遣という仕組みが不要になったから”ではなく、“事業として採算が合わなくなった”という現実だ。市場環境の変化と競争の激化により、事業を維持できない会社が増えているのである。
一方で、日本では正社員が強く保護され、その外側に非正規雇用が置かれてきたという構造が、派遣に対する違和感や不信感を生みやすくしてきた面もあるそうだ。ただし、これは派遣固有の問題ではないと川上氏は指摘する
「育児や介護などの事情で、望む働き方を選べず、パートやアルバイトにとどまっている人も含め、非正規雇用全体を“不本意”から“本意”へと転換していく視点が欠かせません。短時間正社員など、多様な選択肢を広げていくことも、その一環だと考えます」
派遣業界はいま、「縮小」ではなく「選別」の局面にある。飽和した市場のなかで、存在意義を示せない派遣会社が静かに淘汰されている。
取材・文/逢ヶ瀬十吾(A4studio)













