すぐれた手しごとはつくり手の意思が見える

塚原 松岡さんが、いいなあとか美しいなと思った家具ってありますか?

松岡 あるある。やっぱりつくった人とか、デザインした人の意思を感じるものはすごく惹かれるし、手放しでいいなとか、すごいなと思います。自分もそこはすごく意識していて、「なんとなく、こうなっちゃった」というのはよくないと思っている。デザインには「こうしようと思ったから、こうした」という必然性が要る。

たとえば椅子だったら、(腰掛けている「cocoda chair」に触れながら)このラインは、ここに肘をこう置けるようにこの線になったとか、このラインはこうして座ったときに気持ちいいからこの線になったとか、ここは強度的に必要がないからこの線になったとか、全部理由があって、デザインは「自分の意思で描いた」ものであるべきだと思っています。

でもそれだけでは駄目。それは「自分の都合」だけだから。やっぱり人に認めてもらえるもの、社会が認めてくれるものというのは、自分と同じように、「他人にもよいと感じてもらえるもの」だと思います。それが秀作と駄作の違いだと思う。駄作はやっぱりつくり手の意思が見えない。「何でこんな形にしちゃったの?」と言われてしまうものは、駄作だと思う。いいものは、つくり手の意思が全部伝わってくる。「さすがだな」とか、「わあすげえな、こんな細かいところまで気にしているんだ」とか、ものと会話できるぐらい伝わってくる。

一方でつまらないものは、やっぱり「なんとなく、こうなっちゃった」の連続で構成されている。たとえば、「コストダウンしなきゃいけない」という理由でつくられたもの。コストダウンを考えた結果生まれた、「ギリギリの心地よいフォルム」というものが伝わればまだいいけど、「ただ手を抜いただけだよね」というものは、やっぱり面白くない。

塚原 さきほど、「木の言うことを聞きながらつくる」という話がありましたが、材料に引き上げられることはあるんですか?

松岡 特別な材料を使うと、自分の気持ちが引き締まって変わるということはあるかな。それこそ神代木とか使うと、すごい奴と対峙しているから、めちゃめちゃ気持ちが引き締まって緊張する。匂いとかも全然違うし、刃を入れたときに纏わりついてくる、なんとも言えない重さ。「待て待て、緊張しているぞ、俺」みたいな。こんな高価な材料で、もう二度と手に入らないかもしれない、絶対に失敗できない。木に呑まれそうになるのを抑えながら刃を入れて、ここで止まったらもう戻れない、結果的にグッ!と自分が勝って入っていったとき、無心になっている。「今日何食おうかな」と思い始めたらこっちのもので。

塚原 何食おうかなと思い始めたらこっちのもの(笑).

松岡 神代欅は面白かった。結局3000年とか土砂に埋まって腐らなかった奴だから、半分化石みたいな状態で。木目は一見素直に見えて、入り組んでいるから刃が入れづらい。光の方向によって陰影にばらつきがあるから、削る箇所を惑わされる。とにかく難しかったけど、こういう厄介な特徴を持つ木材ほど、美しく仕上がることを知っているから、少しずつ気持ちが昂っていったのを覚えています。あの神代欅は、家具職人である自分に、新たな美しさを教えてくれたね。

構成/高山リョウ 撮影/三好祐司

「日本が世界一になれる木工」国際デザイン賞50冠、厚生労働省認定「現代の名工」に選ばれた家具職人が語る「機能追求が美しいフォルムに着地する」理由_5
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(後編に続く)

なぜ日本の手しごとが世界を変えるのか 経年美化の思想
塚原 龍雲
なぜ日本の手しごとが世界を変えるのか 経年美化の思想
2025年11月17日発売
990円(税込)
新書判/208ページ
ISBN: 978-4-08-721388-1

隈研吾氏(建築家)推薦!
「職人の手が紡ぐ時間と若い起業家のまなざしが交差する。
伝統と革新が響き合う、手しごと再生の書」

◆内容紹介◆
柳宗悦が民藝運動を提唱して百年。いま、その精神にZ世代の起業家が共鳴し、新たな光を当てる。
「経年美化」──時の流れが育む美しさに惹かれ、日本各地の工房を旅し、職人と火や木や土の声を聴くうちに、その意味は生きた実感となった。
伝統工藝は過去の遺産ではなく、持続可能な社会を築く知恵。モノを愛する心が人を結び、手しごとは世界を変える。そのメッセージは海外でも静かな共感を呼んでいる。工藝から未来を紡ぐ挑戦の書。

◆目次◆
第一章 Z世代、工藝に出合う
第二章 工藝から学んだ、これからの生き方・働き方
第三章 知られざる工藝の世界
第四章 これからの日本の工藝をつくる職人たち
第五章 日本の手しごとの「いま・これから」

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