改善されない待遇や労働環境。地方は「新人医師の確保すら難しい」
待遇だけではなく、労働環境の厳しさも状況をさらに複雑にしている。心臓血管外科医の業務は、長時間に及ぶ手術にとどまらない。日常診療、患者家族への説明、術後管理、書類作成など、手術以外の業務も多数こなさなければならない。
こうした業務量を軽減するため、タスクシフトや施設再編といった取り組みは進みつつある。
しかし、心臓血管外科では緊急手術が必要となるケースが少なくなく、24時間対応が避けられない。結果として、医師数が限られる施設ほど負担が集中し、働き方改革で定められた時間外労働規制との両立が難しい状況が続いている。現状では、外科医個人の献身に頼らざるを得ない場面が残っており、命を救えるというやりがいに惹かれながらその過酷さを目の当たりにした若手医師が定着しない一因になっている。
この「制度は変わりつつあるのに現場が変わらない」というギャップについて、学会は具体的にこう述べる。
「人員の手当が不十分で、システム投資を行う余力も乏しいため、効率化が進まないのが実情です。タスクシェアを進めようとしても、他職種も人手不足のため実現が難しいのです」(日本循環器学会)
こうした過重労働が生まれる背景には、単に医師が足りないだけでなく、心臓血管外科手術を行う医療機関が全国に広く散らばっているという構造的な問題もある。学会はこの状況を改善するため、医療の質を保ちながら効率を高める手段として「施設の集約化」を重要なポイントに挙げている。
現在、日本では心臓血管外科手術を扱う施設が約600にのぼり、人口規模に対して多いと指摘されている。そのため施設集約化を進めることで、症例や人材を適切に集めることができるうえ、技術の維持や緊急手術への対応力が高まり、外科医一人ひとりの負担軽減が期待できる。
一方で、地方では状況が単純ではない。小規模な施設を減らせば、搬送中に患者の容体が急変し、病院に到達する前に命を落とす可能性も否定できない。こうしたリスクを考えると、地方の医療機関を一律に統廃合するわけにはいかず、地域の実情に応じた慎重な判断が求められている。
地方が抱える課題は、施設の統廃合にとどまらない。そもそも心臓血管外科医は大都市圏に集中しており、地方では大学病院でさえ新人医師の確保が難しくなっているのが現状だ。特に、わずか2〜3人の外科医で診療を支える小規模施設では、医師の高齢化が進み、体制維持そのものが危うい水準に達している。













