「面白いコンテンツでみんなをワクワクさせる」
最後に岸田さんはメディアの役割についてこう語った。
「非常に根本的なことを言いますけど、ファッションとか音楽とか、小説などもそうかもしれませんが、要は世の中でどうでもいいことなわけですよ。
でも、雑誌に載っていたあの服を買って着ることを考えるとワクワクする、このアーティストの曲を聴くとワクワクするからコンサートに行ってみたい……と考えることって、やっぱり人間が生きていく中で、大切な部分だと思うんですよね」
ワクワクすることが、豊かな人生と、ひいては時代をつくる。
「そういう刺激みたいな、時代をリードするようなことができれば、それぞれの世代の元気も作ることができると思う。
それに火をつけるのは、非常に不遜な言い方をすると、やはりメディアの役割。面白いコンテンツでみんなをワクワクさせるっていうのは、やっぱりメディア全体の責務だと思うんですよ」
新しいワクワク、将来のワクワクを提案する。それが、岸田さんがやってきたことだった。確かに、岸田一郎という編集者が作り上げた「ちょいワルオヤジ」という言葉は、一つの時代を作った。「少しだけ」「控えめに」、でも他人とは違う自分──そんな日本人が持つ国民性が「ちょい」という魔法の言葉に込められている。
74歳になった今も、岸田さんは挑戦することをやめない。
「気楽に、面白い仕事だけ受ける。それが今のスタイルですね」
そう控えめに笑う岸田さんの目は、『LEON』編集長時代より柔らかでありながらも、変わらず輝いていた。伝説は、まだ終わらない──。
取材・文/木原みぎわ 撮影/佐藤靖彦













