昭和・平成・令和と駆け抜けた井上美容室の目的地は…
昭和の設備をそのままに、平成・令和と3つの時代を駆けてきた井上美容室。気になる客層について、明子さんは「シルバー美容院よ(笑)」と教えてくれた。
「お客さんは80代とか90代とか(笑)。いや、さすがに80後半の人はもう少ないかな? でも、ついこの間まで昭和5年(1930)生まれの人が結構来てた。
あと、70代後半のお婆ちゃんが飛び込みで来たりもするね。なんでも、他所だと美容師が若くて喋ってもつまらないから、話の合う同世代がいいんだって。おしゃべり目的よね。
来るのはほとんど女性の方で、男性は着付けしかやってない。メニューは、一応カットやカラーもやっているけど、セットや着付けのほうが得意だし、そっちがメインね」
何もかもがレトロな店だが、意外にも、現代らしい需要があることも教えてくれた。
「“推し活”の常連さんが結構来てるのよ。コンサートのときに派手な髪型をしたいとか、推しの名前の刺繍が入った着物を着たいから着付けてほしいって需要があるの。歌舞伎役者のファンの常連さんもいたし、最近は矢沢永吉と阿部顕嵐のファンも“推し着付け”をお願いされた」
現代らしい要素は他にもある。店内設備は古いが、新しいシステムで効率的な業務が実現しているというのだ。
「今、ホットペッパービューティーで予約の管理をしているんだけど……これがもうすごく楽で(笑)。スマホで確認できるし、飛び込みのお客さんは基本受けてないから、自分のペースに合わせられるようになった。
お釜式のドライヤーを使ったり、店は古いけど、結構新しもの好きなんだよね。今も着付けを習いに行っているし、立ち止まらずにちゃんと進化できるよう勉強してるの!」
ちなみに、この店は明子さんの代で閉めるつもりだそうだ。悲しく思いながらも、閉業までの目標を聞くと、持ち前の明るい笑顔でこう語ってくれた。
「あと20年はやりたいかな。創業110年は迎えたいね!」
取材・文/久保慎













