あの漫画家を人力車に乗せたことも 

これまで、150キロもの男性を乗せた経験もあるという。小柄な関森さんは、一体どのように人力車をひいているのか。

「持ち手を引き上げると軽くなるポイントがあって、その部分を保ちながらバランスをとって引く感じです。実は、コツを掴めば女性でも引くことができます。意外にも、慣れてくると人を乗せない空運転の方が重たく感じるんです」

しかし、人力車の車夫になることは、当初家族からは猛反対されたそうだ。

「母からは、『アナウンサー試験を受けてるのに、なぜ車夫になるの!』って。私が車夫を始めた8年前は、女性が人力車を引くなんて考えられない時代でしたし、道路を走るから事故にあったら危ないと、祖父が一番反対していました。

だけど、その時は就活もうまくいかず自分を変えたい思いがあったので、家族の反対を押し切って車夫のアルバイトを始めました。最初は『勝手にしなさい!』と言われたけど、祖母のお誕生日に、祖父からのプレゼントでサプライズで私の人力車に乗りに来てくれたんです。

浅草を案内していたら祖母が『今まで反対していてごめんね、これからは応援するね』と言ってくれて。その時、祖父はガンで入院していたんですが、その後、亡くなってしまって。本当は、祖父が元気な時に私の人力車に乗ってもらいたかったですね」

ラジオDJとして働く関森さん
ラジオDJとして働く関森さん

実際に人力車を引くようになり、大変なこともあったという。

「浅草の人力車で女性店長は、私が初めてなんです。今、育成もしているんですが、今まで教わる立場だったので、教えるというのはなかなか苦戦しました。

お客様の命を預かる仕事でもあるので、研修期間が長くガイドやコースを覚える中で心が途中で折れて辞めてしまう子がいて、指導に悩んでいました。

そんな時に社長から、『教える勉強は相手がいてこそ勉強になるから、教える側も教えられる側もお互い様』と言われたんです。最近は、新人さんとプライベートな話をしたり、悩みを聞いたりして仲良くなって指導することを心掛けています」

人力車に乗ってくれた中で、忘れられないお客様もいるという。

「浅草に住んでいらっしゃるホラー漫画家の御茶漬海苔先生が、『ちょっとそこまで乗せて』って、タクシー代わりに使ってくださったことが嬉しかったですね。御茶先生は今、ご病気で目が不自由なのですが、その時はまだ少し目が見えていたので、春の桜の時期に気持ち良い風を感じてもらいました。

目の不自由な方も乗っていただくこともありますが、『今、ここに桜の木が800本ありますよ』と、お客様が実際に見ているように感じられるような想像を膨らませられるようにお話しをしたり、匂いや音などもお伝えし、楽しんでいただけるように心掛けています」