老いた母とふたり静かに暮らしていくんだろうな 

蟹めんまさんは、バンギャル(ヴィジュアル系バンドのファン)の生態を描いたコミックエッセイ〈バンギャルちゃん〉シリーズで知られる漫画家。大学進学を機に地元・奈良を離れ、大阪や関東で暮らしてきたが、先述のような理由で十数年ぶりに地元への移住を考えるようになった。 
 
――「出戻り」を決意するまで、迷いもありましたか? 
 
蟹めんま(以下同) 地元に友達もいないし、当初は地域になじめるか不安でしたね。奈良に戻ったらきっと興奮するような出来事は何もなく、山と鹿と寺社仏閣に囲まれて母とふたり静かに暮らしていくんだろうな……と想像していたので、本格的に移住するかどうか、だいぶ迷っていました。 
 
――移住を決断した決め手はあったんでしょうか? 
 
父の遺品整理などで東京と奈良を行き来していたところ、ちょうど J3 に昇格の決まった地元のサッカーチーム「奈良クラブ」に出会ったんです。知人に誘われスタジアムに行ったんですが、試合も応援もめちゃくちゃ激しくておもしろかったんですよ

詳しくは漫画に描きましたが、普段おとなしい奈良県民が応援歌で盛り上がる様子や、サポーター手作りの横断幕や旗のかっこよさに衝撃を受けました。私がこれまで見ようとしなかっただけで、奈良にはこんなおもしろい世界があるのか!と、移住を決める大きな後押しになりましたね。

奈良クラブのサポーターつながりでいろんな世代のお友達ができましたし、漫画のネタもサポーターの皆さんからもらいまくっています。奈良クラブのおかげで人生変わったと言ってもいいくらい。静かに暮らしていくんだろうなと思っていましたが、かなり賑やかだと思います。

――「アラフォーのバツイチ独身女」という自身の状況は、移住してみたらそんなに気にならなかった? 
 
サポーター界隈だと、話題の中心はチームと選手のあれこれなんです。自分たちの暮らしのことよりも共通する話題がまずあるので、個人のことはそんなに気にされていないと思います。地方移住で孤立感が気になる人は、地元のスポーツの現場に行ってみると、いい距離感の人間関係を作るきっかけになると思います。

あとは土地柄もあるのかな。奈良って古くからの観光地なので、余所者がいることに慣れていて、寛容だと感じますね。一人旅の人も多いので、単独行動でも全然目立ちません。気になるイベントや行事があったらぼっちでガンガン行ってしまうんですが、居心地悪く感じたことはないです。 

あと外国人観光客には自由なファッションの人も多いので、どんな髪形、服装でもさほど浮きません。中高生のバンギャル時代には、奇抜な格好をして目立とうとしても注目されなかったという経験もあります。 

『出戻りて、奈良。』収録「祝!照明塔建立」より©蟹めんま/ホーム社
『出戻りて、奈良。』収録「祝!照明塔建立」より©蟹めんま/ホーム社
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