織田信長の「弟殺し」も特別な話ではなかった

僕たちを強く拘束している「当たり前」に、「命は大切なもの」というものがあります。これは同性愛への忌避よりも強い価値観でしょう。性的少数者の権利についてはいろいろなことを言う人がいますが、命の大切さを疑う人はいないでしょう。

僕たちは生物ですから、本能的に死を恐れます。でも命に関する価値観でさえ、時代や文化によって大きく変わってきたことを忘れてはいけません。

たとえば同じ日本でも、戦国時代は命の価値が非常に低い時代でした。殺し合いは日常茶飯事。相続争いで弟の織田信勝を殺した織田信長のように、兄弟で殺し合うことも珍しくはありませんでした。それは特殊な武士の世界だけの話では? と思われそうですが、命の価値が低かったのは、戦国時代の武士階級だけではありません。

農民たちは、「口減らし」として生まれたばかりの子供を殺すことがありました。食料が十分にないから、子供を殺すことで家族の人数を調整していたのです。地域によっては口減らしは近代まで行われていたようで、ある村では、昭和に入っても3、4人目以降の子供を殺していたという記録があります。

親が、自分の子供を殺す—。

今の価値観では、もっとも許されない行為です。生活苦が背景にあるとはいえ、少し前まではそれさえ許容されていたんです。