「駆除」という言葉が、悪い印象を与えてしまっているのか

防衛省は5日、秋田県でのクマ対策を支援するために、陸上自衛隊を秋田県鹿角市に派遣した。陸上自衛隊は、さっそく5日午後から活動を開始している。箱わなの設置や見回り、ハンターが捕獲したクマの運搬を行なういっぽうで、武器による駆除は行なわない。

10月28日、秋田県知事(左)から「ツキノワグマによる被害防止対策への支援に係る緊急要望」を受けた小泉防衛大臣(防衛省・自衛隊Xより)
10月28日、秋田県知事(左)から「ツキノワグマによる被害防止対策への支援に係る緊急要望」を受けた小泉防衛大臣(防衛省・自衛隊Xより)
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しかし、秋田県庁や自治体の役場、猟友会にはこんな問い合わせがきているという。

「自衛隊の派遣をすごく誤解されている方が多く、なかには自衛隊がライフルを使ってクマを駆除したり、捕獲したりするのはどうなのかと、“クマ擁護派”による苦情の問い合わせが相次いでいます」(秋田県・行政関係者)

秋田県庁の担当者は、「自衛隊まで出動させるのはどうなのかといった旨の問い合わせは確かに来ています」と認めたものの、「苦情の数や具体的な内容については控えさせていただきます」とした。

秋田県庁(PhotoAC)
秋田県庁(PhotoAC)

そのいっぽうで、「ここ1~3週間はクマによる事故が多発し報道量も増加しているせいか、『クマを殺すな』などの苦情電話が多く、業務が止まる傾向にあり、支障が出る場合がほとんどです。訛りなどからして、県外からのお電話が多いなという印象です」と述べた。

“クマ擁護派”による苦情は秋田県だけではない。

北海道の南に位置する福島町の住宅街で今年7月12日、新聞配達員の佐藤研樹さん(52)がクマに襲われて死亡した。佐藤さんは事故が起きる前に、3回ほどクマを目撃していたという。

写真はイメージです(Shutterstock)
写真はイメージです(Shutterstock)

社会部記者によると、佐藤さんが襲われた事故が起きたのは午前3時前の出来事だった。

「襲ったクマはヒグマで、約1~1.5メートルの大きさでした。事故現場には血痕が約30センチ四方に広がっており、現場の至る所にも血が点々とついていました。佐藤さんの遺体は近隣のやぶで見つかり、腹部をひどく咬まれており、全身に爪痕が残っていました。

近隣住民は事故当時、悲鳴を聞いており、自宅玄関を出たところでヒグマを目撃。その後、佐藤さんの体を口でくわえ、引きずりながらヒグマは移動したそうです」

さらに佐藤さんを襲ったクマは4年前に町内で女性を襲い死亡させたクマだったことも判明した。同月 18日にこのクマはハンターによって駆除されたという。

写真はイメージです(PhotoAC)
写真はイメージです(PhotoAC)

 事故を受け、北海道庁と福島町役場には200件以上の抗議の電話があったという。福島町役場の担当者が語る。

「クマを駆除した18日以降、県外の方からの問い合わせ(電話やメール)が急増しました。一番多いのは、『クマを殺すな』といったものです。細かい数字までは集計しておりませんが、1日1~2時間ほどは職員が対応に当たらなければならず、業務に支障が出ていました。

苦情の問い合わせは9月まで続き、クマによる事故の報道がされると、福島町で起きた事故の映像が使われたりもするので、思い出したかのようにご連絡を頂くケースもあります」

写真はイメージです(PhotoAC)
写真はイメージです(PhotoAC)

苦情が来た場合、担当者によると「町民の安心安全を守るための手法なんです」と伝えることを心掛ける。ただ、それでも話が進まないことがほとんどで、「向こうのご意見を一方的にうかがうことになる」と肩を落とす。

「あくまで捕獲して山に返しなさいというようなご意見もいただきますが、到底無理な話です。『駆除』するということがやっぱりなかなかご理解いただけないのが実態です。『駆除』という言葉が、相手に悪い印象を与えてしまっているのかなとも感じております」(同前)