「前例を見ない、極めて重大な結果・社会的反響をもたらした」
冒頭陳述では、山上被告が2019年10月に来日した旧統一教会の総裁・韓鶴子氏を火炎瓶で襲撃しようとしたものの失敗に終わったことも明らかにされた。2020年10月ごろには「拳銃の入手を試みた」が、やはり失敗し、同12月ごろから常軌を逸した武器製造に手を染めていく過程もつまびらかにされた。
「驚きだったのは、山上被告の武器製造に懸ける執念です。検察側によれば、山上被告はインターネットサイトを参考に、ホームセンターやネット通販で入手した材料を『ハンドドリル』や『万力』で加工。手製のパイプ銃を『約10丁』も製造したというのです。
警察に押収されたパイプ銃は、安倍氏の襲撃に用いられた2つの銃身があるもののほか、9つの銃身があるものまで造っていたといいます。さらに発射に必要な黒色火薬までも製造しており、旧統一教会に対して並々ならぬ憎悪を抱いていたことがうかがえます」(同)
検察側は、争点となる量刑を争う上での「情状」についても冒頭陳述で触れている。山上被告の「生育歴」「母の旧統一教会への多額献金」「経済的困窮」などが与えた影響について認め、「不遇ともいえる生い立ちがあった」とも指摘した。
一方で、「不遇な生い立ちを抱えながらも犯罪に及ばず生きている者も多くいる」とし、「プライドの高さ、対人関係の苦手さ」という山上被告の特性によって「自分が思い描いていた人生」が送れなかったとも断じている。
「幼少期から虐待を受け続けた少年がそのことを動機として犯罪に及んだというような少年事件」ではないとし、「不遇な生い立ちがあったことで犯罪を踏み止まれなかったという関係」にもないと指弾している。
そして、首相経験のある安倍氏を参院選の応援演説の最中に殺害するという犯行について「我が国の戦後史において前例を見ない、極めて重大な結果・社会的反響をもたらした」と総括した。
自身の犯した罪に向き合うため、山上被告が証言台に座ったちょうどその時、米軍横須賀基地には、大勢の米兵を前にスピーチするトランプ大統領の姿があった。
大統領は同日の高市首相との会談で、「安倍晋三氏は私の良き友人であり、彼の訃報には深く悲しんだ」と語っている。
検察側は、山上被告の殺意を増幅するきっかけのひとつとして兄の自死を挙げた。その亡き兄が、小学校の卒業文集に綴った将来の夢は「大統領」だった。裁きを待つ山上被告は、この哀しき符号にどんな思いを抱くのか。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班













