裏原ブームに見る閉じた価値観
そもそもなぜメンズブランドの服はこうまで買えないのか。
アパレル市場の規模はレディースがメンズの2倍以上と言われる。ファッションに興味を示す層の割合も女性の方が断然多い。
それにもかかわらず、転売ヤーが暗躍するのは圧倒的にメンズ服だ。理由のひとつは男性の服の選び方にある。
昔も今も変わらず男性は服を買うとき「コートと言えばこれ」「シャツはこのブランド」と指名をしがちだ。
対して女性は複数のアイテムを組み合わせ、全体のトレンド感を重視する。そもそもレディースは商品数が多く着こなしの幅も広いため需要が分散しやすい。その結果レディースではメンズのような一点爆発が生じにくいのだ。
ちなみに筆者はかつて男性ファッション雑誌『smart』の編集に長く携わり、1990年代後半から2010年ごろまでストリートファッションの現場を見てきた。特にその前半、いわゆる裏原ブームの頃にはメンズファッションの世界に熱狂が渦巻き、すでに行列や転売の問題が存在していた。
かつての裏原ブームは、「仲間内だけで着る服」という文化から始まった。狭い店、極端に少ない商品、そして無愛想な店員と奥に漂う“身内”の空気――その閉じられた構造こそがブランドの物語だった。
だが一度その内側に入れば居心地の良い世界が待っていた。ショップに通い詰めスタッフと顔なじみになれば、一般には公開されない入荷日情報が口頭で伝えられることもあった。
そんなゲームを勝ち抜いて希少アイテムを手にすることは、仲間入りの儀式であり、そのハードルの高さそのものが価値となっていたのである。
メンズ服を取り巻くそうした独特の空気は、現在の市場にも、ロレックスマラソン(投機の意味合いも強いと聞くが)などのように形を変えながら残っており、ファッション好きの男性はたちは、数少ない人気アイテムをいち早くゲットするゲームに参加し続けているのである。













