価格の上昇と円安、インバウンド需要
まずは価格の問題がある。
前述したオーラリーやコモリなどのブランドを例にとると、もちろんシーズンや素材によって上振れ下振れするのでざっくりした見方だが、相場はシャツやデニムパンツで3〜5万円台、ニットやスウェットで3〜7万円台、ジャケットやブルゾンで6〜10万円台、アウターが8〜20万円前後といったところ。
ちなみにこれらのブランドのアイテムは総じてここ7〜8年で1.5〜2万円ほど値段が上がっている印象だ。
この価格帯はユニクロやGU、ザラといったファストブランドと比べれば桁違いに高く、またシュプリームやステューシーといった海外ストリート系老舗ブランドよりもやや上に位置し、多くの日本人にとっては十分に高級と映る水準だ。
しかし視点を移すと評価は変わる。
現在の日本は円安局面にあり、国内では高いと感じられる価格帯でも、ヨーロッパのメゾンブランドなどと比べればむしろ割安と受け止められる。外国人の目には、日本の高品質なブランドアイテムは、コストパフォーマンスに優れたお得な買い物と映るのである。
前述したオーラリー、コモリなどをはじめとしたファッションブランドは日本人だけでなく、韓国や中国の男性たちからも大人気だ。違うのは彼らにとっては12万円のコートはむしろ買いやすい服であるということ。
買い物のために日本を訪れる中・韓国人は多く、結果、店頭の初動はさらに早くなり日本人の“買えない感”は一層強まる。
C2C市場が生んだ功罪「高く売れるから買う」
またメルカリやSNKRDUNKなどのC2C(個人と個人の間で行う取引)のプラットフォームでは、偽物や無在庫出品こそ禁止されているが、価格設定自体は自由である。
定価3万円のスニーカーが、発売当日にショップの店頭から姿を消し、メルカリなどで2〜3倍以上の金額で取引されることも珍しくないが、これは「需要と希少性が価格を決める市場」として自然な動きとも言える。
それでも転売ヤーが強く嫌われるのは、自分で着るために本当に欲しい人が正規価格で買えないという不公平感を生み出すからである。
ファッション文化を支えるはずの本物のファンが疎外されるうえ、販売現場での買い占めや混乱といった迷惑行為とも直結する。法的にはセーフなので取り締まることはできないが、社会的・道義的にはアウト――。この二重構造が転売トラブルの根本要因である。
メルカリをはじめとするC2C業者たちの功の側面は明確だ。これまで買うだけだった個人を、売買を回す一員に組み込み、ブランドアイテムの価値の再発見を促したことである。
だが同時に罪もある。その価値の発見が、投機のきっかけとなるのを見過ごしてしまったことだ。
かつては「欲しいけど売り切れ」で終わっていたものが、いまは「欲しいから高くても買う」へと変わり、結果として「高く売れるから買う」すなわち転売へと直結する。
ブランドが育てようとする「物語」より先に、二次市場相場が独り歩きしてしまうのである。













