紙のファッション誌の終焉…SNS時代と職人ブランドの矛盾
加えてシーズンごとの重要アイテムを決める仕組みも変化した。
かつてはファッション誌やテレビドラマを通じ、人気タレントやモデルが着用することで確定していたが、いまはSNSがその役割を担っている。
インフルエンサーの「今シーズンのコモリのブラックデニムがえぐい」や「オーラリーのツイードブルゾンはもはや異次元」「TikTok映えするオシャレ服」などの発言ひとつで、特定のアイテムが瞬時に注目を浴び、発売と同時に市場から姿を消す。ちなみに生産数が多いユニクロの商品でも、SNSで注目されることで瞬時にオンラインストアで売り切れることもある。
さらに作り手の職人的こだわりも、買えない原因を生み出している。
先に挙げたようなブランドはそれぞれ独自の強みを掲げつつ、共通して細部の作り込みと背景のストーリーで支持を集めている。素材や縫製、造形、それに伴う着心地を追求し製造工程を緻密にコントロール。手にした人たちは袖を通す度にその価値観に共感できる。
これらのブランドに共通するのは「量より質」に徹する哲学である。
質にこだわりながらも、「もっと数を作れば転売はなくなるのでは?」と考える人もいるだろう。
だが、そもそもユニクロなどファストブランドの服が安いのは、生地を大量に仕入れ、大きな工場を動かし、数多くの店舗を構えているからである。
多くの中小のファッションブランドにとっての生命線は大量生産ではなく、一着の品質と希少性によって生まれる価値である。
加えて、良い工場は限られており、素材や染めのロット、縫製精度や検品歩留まりといった現実的な制約もある。
結果、生産数を安易に増やすことはできないのだ。
結局なぜ買えないのか
そして最後に、僕自身の話をもう少しだけ。
『smart』の現役編集者だった頃、誌面で紹介した服が翌週には店頭から消える――そんな出来事を何度も経験した。
「雑誌が人を動かした」と実感できる瞬間で、編集者としては大きな手応えだった。
当時は雑誌が熱を煽り、人を店に向かわせていた。だがいまはその役割をSNSが担い、投稿ひとつで情報が一気に拡散し、人々が殺到する。そこに転売ヤーが割り込み、相場を吊り上げる。
その速度も規模もかつてとは比べ物にならず、雑誌が人を動かしていた時代が牧歌的にすら思えるほどだ。
結局、なぜメンズの人気服はこうまで買えないのか。仕組みが変わっても、欲望の連鎖は途切れないから。そして僕ら自身がいまも、服に熱狂し続けているからなのだ。
文/佐藤誠二郎













