若者の「生活保守主義」を見よ
この「生活保守主義」は、コロナ禍のもと、そもそも初めから金銭に余裕のない若者を中心に始まった。おカネを使わずに倹約に努める生活だ。
若者たちは、まず、外食をしない。その代わりにコンビニの商品を好んで食し、自宅でネットフリックスを観る。月額1000円程度で映画やドラマ、そしてアニメ作品の数千作が見放題という動画配信サービスだ。これを大画面テレビで観られれば、それだけで幸せを感じる。
多くのことを求めない、小さな幸せを感じて満足する、当然、冒険などしない……現在の若者は、みな同じような感覚を持っている。
そして、職場でも贅沢などしない。自宅からポットの飲み物と弁当を持参する。コンビニで買う場合でも、せいぜい、オニギリかサンドウィッチ、そしてサラダなど……数百円内に留める。
しかし現在の定年後の人たちは、20代や30代にバブルを経験した。私は当時、ソ連の日本大使館に勤務していたため経験していないが、それは贅沢三昧の毎日を送っていたようだ。
たとえば普通のビジネスパーソンも、週末の繁華街で終電を逃すと、道で一万円札を振ってタクシーをつかまえたという……なぜならタクシー運転手も、近距離の客など乗せたくなかったからだ。
当然、会社の同僚と行くランチでも、1000円や1500円は当たり前。そのあと喫茶店でのコーヒーもルーティーン。そして洋服はデザイナーズブランドで固め、ユニクロがなかったので、普通の靴下や下着も1000円以上した。
三十数年が経過し、世の中は変わった。ただ定年後の人たちには、かつてのバブルの感覚が残っている。現在の若者に学ぶところがあるかもしれない。人生を楽しむことは素晴らしいこと。しかし「現在の若者たちには夢がない」などと言わず、彼らの生活感を導入すべきだろう。
こうしたことが、コロナ禍によって、日本社会で明らかになった。
フジテレビが制作した『東京ラブストーリー』というドラマがある。柴門ふみ氏の原作漫画をもとに、1991年に鈴木保奈美と織田裕二の主演でドラマ化された。全編で、この項で述べたような豪華な生活が繰り広げられている。登場する自動車も外車、デートも洒落たフレンチやイタリアンのレストランが舞台となる。
このドラマはフジテレビによって、2020年にリメークされた。しかしそのなかで描かれる生活の水準は、1991年版よりも、かなり低い。たとえば登場人物は外食などせず、家で飲むことが増えている。
これを観ても、バブル崩壊後の経済政策は、まったくの失敗だったことが分かる。その多くの期間で政権を担当した自民党、そして消費税の増税を決めた民主党に関係した政治家は、まさに切腹ものだろう。
しかし、現状を憂いていても、何も変わらない。私たちは今日も明日も生きていかなければならない。そして、その生活を「世界一」に近づけることは、定年後の日本人には、可能なのである。
文/佐藤優