「頑張れたのはお客さんたちがいてくれたから」

子どもとの時間を優先することで、かえって仕事と家族のバランスをとりやすくなった佳月さん。見た目からは想像できないほどパワフルな毎日を送る彼女だが、2023年に脳動脈瘤が見つかる。

「旦那が人間ドックを受けたので自分も3か月後に受けました。脳ドックをオプションでつけたら、4cm弱の腫瘍みたいなものが見つかりました。夫と私は応接室に通されて、先生から説明を受け、その日さらに詳しく検査をすることになりました」

病気が見つかったときの心境を聞くも、佳月さんの回答は意外なものだった。

「びっくりはしましたが、自分なら大丈夫かなって。それよりも仕事のほうが心配でした。卒業式や入学式が近いシーズンを控えていました。たくさんのご予約をいただいてたので。『お客様にとって一生に一度の大切な日のお支度ができなくなるかも…』ということが一番心配でした。そして、我が子の卒業式、入学式は絶対に出たいという思いが強かったです」

佳月さんの美容院には28年以上通われている方や、オープン当初から来ているお客さんがたくさんいるそうだ。「私が頑張って、ここまでやってこられたのはお客様たちがいてくれたからなので」と語る佳月さん。なんと担当医に手術日を先に延ばしてもらうよう説得。家族からも止められるが、手術を延期してもらい、お客さんたちや我が子の晴れ姿を無事見届けた。幸いなことに手術も成功し、現在も元気に仕事をしている。

そんな彼女に今後の展望を聞いてみた。

「年をとっても、自分のペースで美容師の仕事をずっと続けていきたいです。1人2人しかできない空間になっても、長年通ってくれているお客さんとの関係を大切にしながらやっていきたい。もちろん子どもたちともそれぞれとひとりひとりとの時間を作りながら。若い頃は忙しくて遠方の実家にあまり帰れなかったので、母にもたくさん会いたいです」

家族やお客さんとの笑顔あふれる日々を過ごす。13人の大家族を支えるその力の源は、決して特別な才能ではなく、愛情と工夫、そしてあきらめない気持ち。小柄な佳月さんは今日もパワフルに家事育児と仕事を両立するのだった。

後編では佳月さん流の子育て術を聞く――。

みんな笑顔な漆山一家の家族写真 写真/本人提供
みんな笑顔な漆山一家の家族写真 写真/本人提供
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取材・文/桃沢もちこ