自分のありのままは恥ずかしくない

それでも、自分がゲイだということはなかなか言えなかった。あるとき、会場に行くと、他のグループのチラシがいろいろ置いてあり、その中の1枚をサッと取ってカバンに隠した。そこには「LGBT特別ミーティング」と書いてあったからだ。

「ビックリしました。そのミーティングに行ってみたら、AAで会った人もいて、『エーッ』みたいな(笑)。そこで、もう、洗いざらい話せたんですね。その後は、AAなど他のグループでもカミングアウトしています。

私が10代のころ、ひきこもって苦しんだのは、自分の本性は恥ずかしい、絶対に人には見せられないと思って、隠し事が増えていったことが大きかったと思います。だけど、自分のことを偽らずに話せる仲間ができて、受け止めてもらえたことで、自分はありのままでいいんだと思うことができた。それで、ひきこもりからも抜け出たなという実感を持てたんですよ」

カミングアウトできたことで気持ちの整理ができたという森野さん(写真/集英社オンライン)
カミングアウトできたことで気持ちの整理ができたという森野さん(写真/集英社オンライン)

気持ちは格段に楽になったが、現実の社会は甘くない。

AAに通い始めて酒を飲む回数は少しずつ減らすことができたのだが、酒が切れると対人恐怖の症状が出てきて、2、3か月は電車にも乗れなかった。知らない人とつき合うのが辛くてアルバイトも続かない。親の援助がなければ生活もできなかった。

どうにか酒をやめて1年が経過。AAの仲間にバースデーというお祝いをしてもらった直後に、森野さんは再び飲酒してしまう。

「うちの父親はお酒をすごく飲む人なんで、実家には普通にお酒が置いてあるんです。郵便局でアルバイトして帰宅したら、寿司屋で出てくるような湯飲みが置いてあった。お茶か白湯だと思って飲んだら父親の焼酎が入っていたんです。そこから火がついて、アルバイトの給料をほとんど使っちゃうぐらい飲んでしまって」

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
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見返してやると難関試験に挑んだが……

AAの仲間に「実家にいるのは危ない」と言われ、一人暮らしを始めた。働けなかったので、主治医に相談して生活保護を受給。生活が落ち着くと恋人ができた。

「彼とはインターネットの出会い系で知り合って、2年ぐらいつき合ったのかな。やさしくて機転が利いて、私とは逆のタイプでした。彼に直接何か言われたわけじゃないけど、たぶん彼が看護師さんとしてバリバリ働いている姿を見て、自分も就職しなきゃと思った気がします」

業界紙の求人に応募すると採用された。文章を書く仕事は自分に合っていると感じたが、仕事が終わるのは夜遅い。AAのミーティングに行けなくなるのが嫌で、2か月で辞職した。彼とも会う時間が減り、別れることに――。

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
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見かねた父親に「うちで働かないか」と言われた。測量関係の仕事をしている父親は自分で事務所を構えている。

「世の中に出てみると、自分はかなり遅れを取っているのがわかりました。父のもとで働きながら難関資格を取って見返してやろうと思ったけど、全然、うまく行かなくて……。

後から事務所に入ってきた弟の方が仕事はできるし、資格も全部取っちゃうし。で、やる気がなくなって、だんだん朝起きられなくなって。不登校のときとそっくり」

その後、就職したが、長続きせず転職を繰り返した。

「親に認められたいとか、周りに評価されて安定したいという思いでやってきたけど、自分はそういう仕事に興味を持っていなかったんだと、やってみて気づいたんです」