〈前編〉 

惨めな過去を話したら安心感に包まれた 

森野信太郎さん(45=仮名)が22歳のとき、主治医から勧められたのはAA(アルコホーリクス・アノニマス)というアルコール依存症からの回復を目指す自助グループだ。もともとはアメリカで始まり、日本にはカトリックの神父が広めたという。「言いっぱなし、聞きっぱなし」のミーティングや「12のステップ」という回復のプログラムを行っており、各地にグループがある。

自宅近くの会場に行くと中高年の人ばかりで初めは居心地が悪かったそうだ。

自身の経験を話してくれた森野さん(写真/集英社オンライン)
自身の経験を話してくれた森野さん(写真/集英社オンライン)
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ところが、スーツを着てピシッとした中年男性が「精神科病院に入退院をくり返して……自分は文字通り裸になるまで病気に気づけなかった」と話すのを聞いて、印象が変わる。

「ここは、自分の惨めだった過去や苦しんできたことを話す場所なんだ。自分も話したら楽になるのかなと、おぼろげながら思ったんですね」

2、3回目に参加したとき、自分と年恰好の近い若者が遅れて入ってきて、森野さんはドキッとした。

「イケメンだったんですよ。ちょっとタイプで(笑)。充実した生活をしているのがにじみ出ていて。で、彼が話した過去が衝撃的だったんです」

その男性は母子家庭で育った。10代で酒を飲み始めて学校に行けなくなったのは森野さんと同じだ。男性は飲み会の後、なぜか酔ったまま送電線に登ろうとして、電線をつかんで丸焼けになって落下。

ひどい火傷を負った。精神科病院に入れられ、親族からは「お願いだから死んでくれ」と言われた。そんな自分がかわいそうだと感じて、ますます飲んでしまったのだと、話してくれたのだという。

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
写真はイメージです(写真/Shutterstock)

「自分よりもっと壮絶な体験だけど、とっても共感したんです。そんなことを朗々と話せる彼はすごい。彼ともっと話してみたい、友だちになりたいと思ったんですね。

自分も思い切って『中1で不登校になってお酒を飲んだ』という話をしてみたら、本当に不思議な安心感っていうのかな。みんなに受け止めてもらえたっていう感覚を覚えて、なんだか楽になった。それが、AAに通い続けるきっかけになりました」