店舗数と業績を拡大できた理由
「原価は高騰しましたが、商品クオリティを保ち、顧客満足度だけは維持するよう心がけました。ランチの名物であった1000円ステーキは価格を据え置き、米やサラダ、スープの食べ放題を継続したことが売上確保につながったのだと思います。肉や米の価格が高騰して、家で食べなくなった人が逆に利用してくれるようになったと感じています」と義元氏。
さらには従業員の作業負荷を軽減することで、人件費率を通常よりも10%低い20%程度に抑え、原価高騰の中でも営業利益を確保している。
「ステーキは熱した溶岩プレートに乗せているので、焼き加減は商品提供後にお客さま自身で調整してもらいます。従業員は肉の焼き加減をレアに統一し、作業時間を短縮できるので、難しい技術は必要ありません」
結果的に直営店だけでなくフランチャイズ店での利益確保ハードルも下がり、店舗数の拡大を後押しする形となった。
業績好調な飲食店チェーンの共通点とは
「やっぱりステーキ」が店舗数を拡大している要因には、海外マーケットへの進出もあげられる。実は近年店舗数を拡大している飲食店チェーンに共通する戦略の一つでもある。
回転寿司大手チェーンの「スシロー」を経営する(株)FOOD&LIFE COMPANIESは、2026年9月期には海外で400店舗を展開する計画を発表。これは2020年度に同社が展開した海外店舗数の約10倍である。
また、牛丼大手チェーン「すき家」の(株)ゼンショーホールディングスが2024年に発表した計画では、今後新規出店する1450店舗のうち、1321店舗が海外となっている。国内では原価高騰を加速させていた円安が、逆に海外進出のコストを下げているのである。
「『やっぱりステーキ』は、オーストラリア、フィリピン、シンガポール、ネパールで計14店舗を展開しています。海外では出店コストだけでなく人件費も抑えられ、かつ高めな商品価格も受け入れられやすい傾向です。
フィリピンのセブ島では平均月収が日本円換算で3万円ほどでも、1000円のステーキが地元住民に売れています。高い物価が国民に馴染んでいるので、利益をしっかり確保できる価格設定にできるんです」(義元氏)
実は日本国内の店舗で価格据え置きの宣言をした(株)サイゼリヤでも、海外で展開する店舗では値上げを実施している。海外事業で利益を上げ、国内のコスト高を吸収する戦略をとっている。長らくデフレが続いていた日本に比べ、海外は圧倒的に値上げがしやすいのだ。
日本国内で原価高騰と消費者のデフレ思考の板挟みとなっている外食企業には決断が迫られている。海外進出か、国民がインフレ思考に転換するまでの耐久レースに臨むか。今後、街に並ぶ飲食店の顔ぶれには大きな変化が現れそうだ。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班