誰が結婚後の「美しい景色」を語るのか

一方の「会社の先輩」などの大人たちについて、Z世代は辛辣な言葉をもらします。

「共働きで子育て中の先輩が、髪振り乱して全然幸せそうに見えない」「僕には、やっぱ(出産・子作りは)無理かな。両立できる体力もないし」

写真はイメージです(PhotoAC)
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なかには、子育てを「エベレスト」や「グレートレース(耐久レース)」にたとえて、こんなふうに訴える若者たちもいるのです。

「私(僕)にとって出産は、エベレスト登山や、グレートレースのようなものなんです」

すなわち、子育てに興味がないわけではないけれど、そのゴールは、遥か彼方にある。しかも、一旦ゴールを目指して登ったり走ったりし始めたら、子育ては途中でやめるわけにはいかない。それなのに、周りの大人は、誰も自分を助けてくれそうにない。

彼らは言います。

「もし、自分より前に登り(走り)きった人たちが、ゴールから見える景色を『こんなに美しいんだよ』と教えてくれれば、まだ『やってみよう』と思うかもしれない」

でも現実は違う。会社の先輩や周りの大人たちは、「子育てにはお金がかかる」や「仕事との両立が、こんなに苦痛だなんて」と嘆くばかりで、景色の美しさはまるで語ってくれない。その姿を見ても、「ああなりたい」とは思えないし、やれる自信もないのだと……。それを聞くにつけ、胸が痛みます。

確かに40代以上の共働き(フルタイム)夫婦に取材しても、「産んでよかった」「子育てって、本当に楽しい」といった喜びの声は、あまり聞こえてきません。それだけ彼らが、毎日仕事をしながら育児を続けていくことに疲れているからでしょう。

また、近年は「子どもが欲しくてもできない」と悩み、不妊治療を経験する夫婦が「4.4組に1組」とも言われ、表立って「産んでよかった」と言うことがタブー視される環境にあるとも考えられます(25年厚生労働省「不妊治療と仕事との両立サポートハンドブック」)。