子育ての身近なロールモデルがいない
では、お金以外の何が、Z世代の「子どもはいらない」に影響しているのでしょうか。考えられることの一つは、「育てる自信がない」。
先の大手プロバイダーの調査で「将来、子どもがほしくない」と答えた若年未婚者(全体の約5割)に、その理由を聞いたところ、「お金だけの問題」との回答は2割弱(17.7%)に留まり、「お金以外の問題」が4割強(42.1%)を占めました。そして後者の最大の理由は、「育てる自信がないから」(52.3%)だったのです。
Z世代は幼少期からスマホやPC、各種ゲームなどでの「ひとり遊び」に慣れており、年齢を超えて異世代でワイワイと外遊びするのが日常だった昭和世代とは違います。また、およそ5人に1人がひとりっ子と考えられますから、年下の子どもにどう接すればいいか、分からない若者も多いはずです。
逆に、そんなZ世代が「自分にも(子育て)できるかも」などと自信や実感を高めるうえでは、本来なら近年、東京・世田谷区などが実施する、通称「赤ちゃん授業」、すなわち赤ちゃんがいる夫婦が中学校などを訪れて生徒たちと交流するような場を、彼らが10代のころに増やせればよかった。でも遅きに失したいまとなっては、なにより身近な「子育てのロールモデル」の存在が大きいのではないでしょうか。
Z世代にとって子育てのロールモデルと言えるのは、やはり「親」や「会社の先輩」をはじめ、周りにいる大人たちでしょう。
まず「親」との関係が、Z世代の出産(子作り)意欲に少なからず影響を与えていそうな様子は、今回のインタビューの最中にも、たびたび垣間見えました。
たとえば、親との関係が良好とは言えない若者の場合。幼少期に親が「泥沼離婚」したレンさん(運輸会社)や、母親が二度の離婚を繰り返し振り回されたというミオさん(航空会社)は、二人とも「結婚はともかく、子育てには自信がない」と言い、「わざわざ子どもを産んで不幸にしたくない」とも話していました。
また、「母親に、プログラミング教室に強制連行されていた」というカイトさんは、「いい親のロールモデルを知らないから、子育てが怖い」と話し、過干渉の親を持つヒロミさん(自営業)は、「毎日親に気をつかっている。この上、子どもにまで気をつかえない」と顔をしかめました。
Z世代はよく、親の格差を示す際に「実家が太い」「細い」との表現を用います。前者は実家が裕福、後者はその逆の意味で、たとえば「自分と違って実家が太い子は、留学し放題で羨ましい」などと話します。ただ今回、出産(子作り)願望についてだけは、結婚願望とは違い、実家が太くても細くてもさほど影響しない可能性もある、と感じました。
実際に、共依存に近い若者も含め、「親が大好き」と話す若者たちは、たとえ実家が細くても、出産(子作り)に前向きな印象でした。たとえば、「両親は『(仲良し夫婦を演じる)仮面夫婦』だけど、パパには愛されたって感じる」と話すサリナさん(食品メーカー)は、「結婚はどっちでもいいけど、パパに孫の顔を見せてあげたい」と言います。
また、母親と4回ユニバに行ったというリクさん(文具メーカー)や、「うちは『シンママ(シングルマザー)』で貧乏だったからこそ、ママには感謝しかない」と話すアサミさん(百貨店)は、共に「早く子どもが欲しい」「出産して親孝行したい」と言います。
一般の調査でも、「出産=親孝行」の傾向は数多く見られます。22年、あるリサーチ企業が1000人以上の男女に行なった調査でも、「(子が親に)喜ばれた親孝行」の第3位、「(親が子に)してほしい親孝行」の第2位は、いずれも「孫の顔を見せる(見せてくれる)」でした(ボイスノートマガジン「親孝行に関するアンケート」)。