民間では考えられない、典型的なお役所仕事 

ただ、安中射撃場は利用客が少ないためにライフル射撃場のみの片肺営業をしているわけではない。その経緯を説明しよう。

群馬県では鳥獣被害(年間約5億円・2022年度)が拡大する一方で、シカやイノシシなどを仕留める銃の撃ち手は高齢化などにより減り続けている。ピーク時に9022人もいた第1種銃猟免許取得者は今では1500人ほどにすぎない。

そこで危機感を抱いた群馬県猟友会は2012年2月、県に新たなライフル射撃場を整備してほしいとの請願をした。

同年10月、県議会で請願採択。それを受け、県はライフル射撃場整備検討委員会を設置、およそ1年半にわたる検討の末、安中射撃場内に既存のクレー射撃場に加え、本格的なライフル射撃場を併設する方針が決まった。2015年のことだった。

当初の県の計画では、安中市との防音対策協議を経て2016年中に基本構想をまとめて2017年に着工、2年後の19年にも華々しくオープンさせる予定だった。実際、ライフル射撃場は同年3月に竣工している。

だが、その後がいけなかった。安全対策の不備により、これまで半世紀近くにわたって営業を続けてきたクレー射撃場の開場ができなくなってしまったのだ。

クレー射撃場
クレー射撃場
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射撃場を管轄する群馬県環境森林部の関係者が片肺営業になった顛末をこう説明する。

「ライフル射撃場が完成した後になって、重大な欠陥が発覚したんです。クレー射撃の弾は広角に広がる。その弾が新設したライフル射撃場の建屋の一部に当たってしまうことがわかったんです。

これではクレー射撃場は公安委員会の指定認可が受けられない。そこで安全の見込みが立つまでクレー射撃場は休場とし、まずはライフル射撃場を2024年4月に先行して開場したというわけです」

請願スタートからライフル射撃場オープンまで、じつに13年もかかった計算だ。それだけではない。約半世紀にわたる稼働実績を持つクレー射撃場が休場に追いこまれてしまった。

「あれこれと試行錯誤しているが、どう工夫しても安全基準を満たせそうにない。クレー射撃場の開場は見通せない状況にある」(前出・環境森林部関係者)という始末だ。

これだけプロジェクトが長期にわたると、投入された血税も雪だるま式に膨らむ。当初、県の見込みは5億円ほどだった。ところが、今では17.2億円(ライフル射撃場関連5.9億円、クレー射撃場関連7.2億円、今後の安全対策予定費用4.1億円)にもなっている。

ある地元住民は「作っておいて安全基準が満たせないって…こんなバカな話はない」と嘆く。民間企業では考えられない、典型的なお役所仕事といえるだろう。

いったい、どうしてこんなことになってしまったのか? 13 年間にわたった地方プロジェクト迷走の顛末を#3でお伝えする。

文/集英社オンライン編集部