なぜ美容外科は人気なのか?
美容外科を中心とする自由診療に人材が流れるのは、美容外科とそれ以外の診療科目では収入格差があまりに大きいからです。
日本の医師法は医師国家試験に合格して診療に従事しようとする医師に対し、国の指定を受けた研修病院で2年以上臨床研修を受けることを義務づけています。「激務で薄給」というイメージが強かった研修医の待遇は、2004年に新医師臨床研修制度が施行されて以降はかなり改善されましたが、それでも研修医(初期研修医)の平均年収は約450万円であり、決して高いとはいえません。
初期研修を修了すると、医師は自分が進みたい診療科を選択し、専門研修プログラムを持つ医療機関で3〜5年間の専門研修(後期研修)を受けて専門医になるのが一般的ですが、この際に後期研修を受けず、自由診療の道に進むことも可能です。
後期研修中の医師の平均年収は約700万円であるのに対して、首都圏の美容外科チェーンで常勤医師として勤務した場合の年収は約2000万円で、残業なども少ないといわれています。
保険診療に魅力を感じられず、手っ取り早く稼げる自由診療に進もうと考える若い医師が増えるのは、短絡的ではあるものの理解できなくもない現象でしょう。もっとも、この自由診療偏重の流れは、美容ブームしかり、ほかの自由診療ビジネスしかりで、一過性の要素はあるでしょう。ただし、その背後にある制度的な格差構造を放置すれば残り続け、別の診療科の偏在という形で再び表面化します。
いずれにせよ、これは明らかに社会全体にとって望ましくない状況です。本来であれば、美容外科を志望する医師には別途「美容医学部」のような専門学部を設けるか、あるいは高い税負担を課すコースを設定することで、真に必要な医療分野への人材流出を防ぐべきです。