トランス女性にとって「多様性」とは?
現代の日本社会には「多様性」「女性の社会進出」といった言葉があふれている。だがトランス女性である美菜さんは、それをどのように感じているのだろうか。
「LGBTQとか多様性とか……そんな言葉がいっぱいあるじゃないですか。日本社会の中で蔓延しているって言ってもいいぐらい。でも結局、どれも中途半端だと感じています」
トランス女性に関しても、日本では手術を受ければ戸籍や名前を変えることができる。それ自体は“幸せ”な面もあるが、誰もが手術を受けられるわけではない。経済的・身体的な事情であきらめざるを得ない人もいる。
「日本では、手術をすれば性別変更ができる。でも、その裏には“好きにやらせてあげてるんだから、黙っとけよ”という上から目線な思想が見えてしまうんです。私自身は身体も変えて、生物学的な性も変えて、もう女性として生きている。でも、周囲では“もっと主張させろ”という声が強まっているのも事実です」
さらに彼女は、他のセクシュアリティが置き去りにされている現状にも触れた。
「ゲイやレズビアン、バイの人たちは置いてけぼりじゃないですか。パートナーシップ制度も全国で統一されていない。自治体によってバラバラで、本当に必要なのは国レベルでの制度整備だと思います」
性別適合手術が医療的にも制度的にも一定の成熟を見せているタイに比べ、日本ではいずれも発展途上にある。美菜さんのような、大掛かりな手術を経て“その後”を生きる個人の声は、生きづらさを感じている人たちが「こんな選択肢もある」と気づくきっかけになりうるだろう。
※すべてのトランスジェンダーの人が医療的措置(ホルモン治療・手術など)を選ぶわけではありません。本記事では美菜さん個人の意見と体験を紹介しています。
取材・文/伊藤良二 写真提供/雨松美菜