「この案件が赤字でも次の案件で黒字にする」は通用しない

 ゼネコン経営陣にとっては胃が痛い問題だが、黒船であるアクティビストの登場は、商習慣の見直しという絶好の機会でもあった。日本のゼネコンの経営効率の低さの一因に、発注側である不動産デベロッパーとの力関係の差があると言われていた。

相互に株式を持ち合い、「この案件が赤字でも次の案件で黒字にする」といった調整が可能なことも、規律を失わせていた。

しかし現在、ゼネコン側は「選別受注」という言葉を繰り返し、赤字になるような案件は受注しないと発注側に突きつけるようになっている。その対象は不動産デベロッパーに限らない。

8月下旬、三菱商事が洋上風力発電からの撤退を発表したが、これも建設を請け負う予定だった鹿島建設がプロジェクトから離脱したことが引き金になったとされる。

建設費の増加分の負担を巡る調整で折り合えなかったとみられるが、国家プロジェクトである洋上風力であっても、利益の出ない案件からは手を引くという覚悟の表れだ。

アクティビストの牙が向かうのはゼネコンだけではない。投資会社の英パリサー・キャピタルは24年10月、東京駅八重洲口などで大規模再開発を手掛ける不動産デベロッパー、東京建物の株式を取得したことを明らかにした。

政策保有株の売却や株主還元を主張し、実際に特別配当を勝ち取っている。

「第2六本木ヒルズ」も暗雲漂いつつある 

株式市場のルールではあるが、「アクティビストの言う通りに経営していたら、大規模再開発なんてできない」と大手不動産デベロッパー幹部は頭を抱える。 

大規模再開発には10年、20年といった単位で取り組むものも少なくないが、アクティビストが求めるのは短期的な株主還元や株価上昇だ。時間軸のズレは大きい。 

六本木ヒルズ
六本木ヒルズ

その象徴となっているのが、米ヘッジファンドのエリオット・インベストメント・マネジメントと住友不動産との衝突だ。エリオットは今年3月に住友不動産の株式取得を明らかにし、不要な不動産の売却や株主還元の充実を求めている。

一方、住友不動産側は一部物件を売却するとしたが、エリオットの求める水準の物件売却には消極的だ。

「再開発に向けて仕込んでいる物件を手放して株主に配当として配ったところで、将来のために残してある種籾に手を付けるようなものだ」と、再開発に詳しい不動産ブローカーは分析する。

しかし、世界的な日本株ブームも手伝い、「黒船」による圧力は強まる一方だ。現在、住友不動産が森ビルと共同で手掛けている「第2六本木ヒルズ」と呼ばれる六本木での大規模再開発も、暗雲が漂いつつある。