「納期を間に合わせたいならそれなりの金を積むべき」
スーパーゼネコン側にも言い分はある。九州のTSMCや北海道のラピダスなど半導体産業の大型投資も重なり、サブコンと呼ばれる設備業者も奪い合いとなっている。
五輪や万博のような国家事業を除き、ゼネコン側は収益性が高い案件から受ける「選別受注」に取り組むようになった。
こうした状況下、膨大なリソースを必要とする都心部での再開発の難易度は高まっている。
「納期を間に合わせたいのならばそれなりに金を積む必要があり、清水建設の値上げも理屈は通っている」(前述のゼネコン社員)
人手不足も強烈な逆風となる。ピーク時の1997年には685万人もの就業者数を抱え雇用の受け皿として機能していた建設業界だが、現在は3割減の477万人にとどまる。
高齢化した職人の引退や残業規制の強化による「2024年問題」により人繰りが難しくなっており、労務費は高騰。
ゼネコン側も仕事をすべて消化できないため、不動産デベ側が受け入れられないような数字を出して婉曲に断っているという側面もあるようだ。
ゼネコンが最も気にしているのは客ではなく株主
もっとも、ゼネコン側が都心部再開発に後ろ向きな理由はそれだけではない。「いまゼネコンが最も気にしているのは客ではなく、株主だ」と日系証券会社のアナリストは語る。
バブル崩壊で経営危機を経験したゼネコンだったが、その後の経営再建の途上、成長投資に資金を振り向けるのではなく、危機に備えて手元資金を貯め込む方向に動いた。
リーマン・ショックや新型コロナウイルス禍を耐え凌ぐことに成功したものの、「物言う株主」であるアクティビストにとっては、格好の獲物となった。
その代表例が、英国の資産運用会社、シルチェスター・インターナショナル・インベスターズだ。同社は清水建設や大林組、戸田建設といった日本を代表するゼネコンに投資し、株主還元の拡充や資本効率の改善といった要求を突きつけた。
不祥事で揺れるフジ・メディア・ホールディングスへの提案で名を揚げた米ダルトン・インベストメンツや旧「村上ファンド」なども参戦しており、上場しているゼネコンにとって、株主対策が最大の経営課題となっていた。