マサイの第二夫人としての暮らしは?
――マサイ族の村での暮らしのなかで、大変だったことはありますか?
一番きつかったのは「ノミ」ですね。マサイの家は、牛糞を使って作る伝統的な家屋なんですが、周囲には牛や野生動物がたくさんいるので、ノミがとにかく多いんです。
マサイの人たちは皮膚が硬い体質なのであまり刺されないんですけど、私は“やわらかい皮膚”の人間なので、もう格好の標的。ひどいときは、たった一晩で200箇所以上刺されたこともあります。
蚊なんて比じゃないくらいのかゆみで、一晩中かきむしって眠れず、全身傷だらけ……本当に大変でした。
だから私は、自分のためにノミ対策を施した家を建てました。壁はセメントで塗り固めて、ノミが住み着かないように。伝統的なマサイの家には窓がないのが普通ですが、私は明かりと風通しのために窓もつけました。夫も「自分が快適に暮らせるようにすればいい」と言って、私の生活を尊重してくれました。
――その家はご自身のために建てたものなんですか?
はい。私と夫が暮らす家ですが、所有者は私になります。
マサイの一夫多妻制では「家は女性の持ち物」とされていて、夫人それぞれが一戸ずつ自分の家を持つのが当たり前なんです。
夫人同士が同じ屋根の下で暮らすことはないので、結婚と同時に家を建てるのは、ごく自然な流れでした。
――その建設費は誰が負担するんですか?
もし伝統的なマサイの家を建てるなら、夫のジャクソンが出していたと思います。彼は結婚をするときに「マサイの生活をする分には養うことができるけど、日本人レベルの生活費までは出せない」と言っていたので、建築費は私が負担しました。
たとえば、仕事で日本に行く際の飛行機代なんかも自分で出すのが当然だと考えています。
――生活費なども永松さんが負担されているということですか?
いいえ、そこは一切負担していません。よく「夫は私のお金目当てで結婚したんじゃないか?」と揶揄されることもあるんですが、マサイ族はそういう人たちではまったくないです。夫の家族は牛で生計を立てていて、経済的にもきちんと自立しています。