念願の医学部合格も学内で孤立し、うつに…
ようやく医学部に合格するも、齢はすでに29。
進学先は地元名古屋から遠く離れた広島大学だったが、国立大学の医学部だけに難易度は高い。家庭は特別裕福ではなく私立という選択肢がなかったなかで、なんとか切り拓いた医者への道だった。
「やっと終わったという気持ちと、もうこれ以上足踏みができないなという気持ちがありましたが、あとはスムーズにいくだろうと楽観的に考えてました。
それに、医学部生としての華のキャンパスライフを想像していなかったと言ったらウソになりますね……(苦笑)」
ただ、現役生から見れば11歳も年上の“おっさん”である。異物のような目で見られ、実習のときに話しかけても校内で挨拶をしても無視される。オーケストラ部に入ってファゴットを吹いても状況は変わらなかった。
人間関係に悩み、今度はジンジンさん自身がうつになってしまう。
「医学部は6年制ですが、私はそういう状況で6回の留年と2年の休学があり、結局、大学に14年も通うことになってしまいました」
この時点で43歳。不惑の年を過ぎても惑いまくるジンジンさん。それでも「なんとか卒業できたから、今度こそスムーズに医者になれる!」と息巻いた。なにせ医師国家試験の合格率は約90%だ。
だが、この試験の受験者は全員医学部を卒業した秀才たちである。逆を言えば、その秀才たちでも1割が落ちるのだ。
しかも、これまで学費等を援助してくれた両親はすでに後期高齢者となっていた。もはや国試のための予備校に通う経済力はジンジンさんにはなく、独学で臨むしかない。
塾講師のアルバイトやスポットワークで生活費を稼ぎながらの受験勉強はどうにも効率が悪い。それどころか奨学金返済などで家計は火の車だ。
「早く医師にならなければ……」
焦る気持ちをあざ笑うかのように今年3月、5度目の医師国家試験に不合格となり、ジンジンさんは31年目の”医師の卵”となった。