民放よりプロパガンダ的なNHKの番組

この番組では、ノイズを軽減したプロペラや荒海でも静止できる海洋調査船などの技術が紹介されたうえで、

「最近日本が落ち込んできていたが……まだまだ日本も捨てたもんじゃないなと思いました」
「……いろんな人が協力しあって乗り越えてきた上に今の私たちの生活があるんだなと思うと、それがすごく日本人っぽいというか」
「うれしいですよね、誇りに思える」


――と、番組の最後にMCとゲストが感想を述べていた。それぞれの技術を開発した人や企業がまずはスゴイはずなのだが、いつのまにか「日本人っぽい」「誇りに思える」といった自民族の優秀性を強調する感想へと接続されているのである。

番組最後の出演者の感想の場面などほとんどの人は聞き流す程度のものであるとは思うのだが、このコメント台本を書いた番組の作り手がこめたメッセージは明瞭だ。〈日本は実はスゴイ〉〈日本人らしさを発揮している〉〈同じ日本人として誇りに思う〉なのだ。

「すごいプロペラ」から「日本人として誇りに思う」の間には論理的にも大きな飛躍があるはずなのだが、そこを「日本人として」の共感でやすやすと乗りこえているのだった。そしてそのよくわからない情緒が、この数年のあいだに、ゴールデンタイムのテレビ番組から大量に流されていたのである。
 
ところが二〇一七年以降、「日本スゴイ」番組の放映はどんどん減少していった。とりわけ民放系では――一部を除いて――毎週のレギュラー番組であったものが月に一回とか一クールに一回などスペシャル番組化し、たまにTVをつけるとやっている……的なものに変化した。やはり過剰に集中したがゆえに飽きられた感が強い。

その一方で、ひな壇芸人と派手なテロップで「スゴイ」「スゴイ」を連呼する従来のバラエティ番組タイプのものから、2020東京オリンピックに向けた日本文化紹介番組という枠組みのものへとシフトされつつあるのも二〇一七年以降の一つの特徴だった。

先述のリストには挙げていないが、海外向け放送であるNHK WORLD-JAPANでは、「日本文化」を海外向けに紹介するという形式をとった『Japanology Plus』『Journeys in Japan』『TOKYO EYE 2020』『Kawaii International』さらに、日本製品の紹介に特化した『great gear』や伝統工芸をベースにした起業家を紹介する『RISING』などの番組がある。

『NHK WORLD-JAPAN』
『NHK WORLD-JAPAN』
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これらは政府・経産省のすすめるクールジャパン戦略に忠実に沿うもので、「日本文化」の再定義としてパッケージされているだけに、ある意味で民放各局の「日本スゴイ」バラエティよりもプロパガンダ的であると言える。

文/早川タダノリ 写真/shutterstock

『「日本スゴイ」の時代 カジュアル化するナショナリズム』(朝日新聞出版)
早川タダノリ
『「日本スゴイ」の時代 カジュアル化するナショナリズム』(朝日新聞出版)
2025年6月13日
990円(税込)
288ページ
ISBN: 978-4022953193
「クールジャパン」「観光立国」を始めとする国家的文化政策を筆頭に、書籍・雑誌・ムックからテレビ・ラジオ番組、人材育成セミナーなど、さまざまな媒体を介して社会的に広がっていった「日本スゴイ」コンテンツは、どんな機能をはたしているのか――具体的なエピソードの中から読み解く。
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