瀬戸際まで追い詰められた病院
――戦下とはいえ、人々の日常生活がある。だからこそ、国境なき医師団による医療の維持が重要になるわけですね。
それは少し違います。そもそも、ガザの人びとの”日常”は既に崩壊しているんです。紛争が激化する以前に必要とされ受けていた医療サービスと同じものを受けることは、もはや不可能です。
ですから国境なき医師団としては、多くの制約と限りあるリソースを考慮して、何を優先すべきか考えて行動しています。
緊急人道医療援助団体として最優先事項は”ライフセービング(救命)”です。基礎医療を提供できる団体は他にあっても、入院や手術、さらに集中治療といった高次治療を行える団体は多くはありません。
最新の状況はわかりませんが、私が活動していた時期(約10ヵ月前)には、36あった病院のうち、機能していたのは17で、うち多くは部分的にしか機能していないと言われていました。
それに加えて、基礎医療を提供する診療所などの多くは機能不全に陥っていました。その結果、基礎医療から高次医療を必要とするすべての患者さんが、かろうじて機能している病院に殺到しているという状況でした。
総じて、ガザの医療体制はほぼ崩壊していると言えるのだと思います。部分的に機能している病院でさえ瀬戸際まで追いつめられていました。
そんな状況で、国境なき医師団としては、熱傷治療や集中治療といった高次治療を含め、基礎診療から、内科、外科、小児科、産科といった範囲までカバーする必要がありました。
医療施設が攻撃を受けた例は、ウクライナやイエメン、シリアでもありました。しかし、基礎医療レベルから高次医療レベルにいたるまで医療施設が万全に機能せず、医薬品や器具などの供給も途絶え、これほどまでに医療体制全体が破壊されんとしている現場を私は知りません。
構造物だけでなくシステムさえ破壊されようとしている、そのレベルは、今まで経験したことがありませんでした。
瓦礫の山や、かろうじて残った建物の一部、えぐられた地表を目の当たりにして、地上に存在するもののみならず地面の下奥深くまで破壊つくそう……そんな破壊する側の意志さえ感じました。
それだけではなく、公的な国際機関や多くの国々が批判しているにもかかわらず、破壊が続いている。その点においても、ガザは、これまで私が見てきた現場とは異なると考えます。
構成/岡田裕蔵 撮影/村上庄













