「私がやりたかったことってこれじゃん!」

高校は、世界大学ランキングでは常に東京大学よりも上位の北京大学の附属高校に入学した。

「みんなが試験や大学受験のために必死に勉強をしているなか、私は授業中でもスマホのゲームをしたり、読書や趣味の推理小説を書いたりしていました。それでも成績はいつもトップクラスで。国語と物理が得意。毎回だいたい満点に近かったです。

そもそも苦手だな、という科目もないんです。比べる相手がいないからコンプレックスもないんですけど、不思議キャラだからかモテなくて」

コンプレックスがないながらも、もやもやした十代を過ごしていた、いぜんさんに、衝撃と目標をあたえてくれたのが、偶然見た日本のアイドルグループだった。

「嵐のミュージックビデオを見て、『松潤、めっちゃかっけえ』と思いました。それから嵐が出るバラエティ番組を見漁るようになって、共演しているお笑い芸人を見ているうちに『日本のお笑い、すげえな』と。

特に森三中さんとか、女の人たちがお笑い芸人として身体を張って活躍しているところにめちゃくちゃ憧れました。中国ではこれまでこんな人たちは見たことがなかったので『私がやりたかったことってこれじゃん!』て」

いぜんさん 撮影/齋藤周造
いぜんさん 撮影/齋藤周造
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それからというもの、「M-1グランプリ」やトーク番組など、芸人が出演するあらゆる日本のバラエティ番組を字幕を通して見続けた。明石家さんま、千鳥、かまいたち…。そのうち印象に残る芸人たちの多くが、日本の笑いの殿堂・吉本興業所属だということを知る。

「最初は日本語が全然わかりませんでしたが、番組を見ているうちに話せるようにもなりました。そして、『吉本の芸人になるために日本へ行く』という目標ができました」

バラエティ番組仕込みのフランクな日本語で、お笑いへの熱い思いを語るいぜんさん。
こうして彼女はどんどん日本のお笑いの魅力に引き込まれていく。

後編では、来日してからの日々と今後の芸人としてのスタンスなどについてうかがう。

いぜん●1998年4月生まれ、中国・北京出身。中国の超難関高校を卒業後、東京都立大学理学部に留学する名目で来日。テレビ番組の出演をきっかけに注目を集める。現在はピン芸人として活動しつつ、東京大学の大学院生として核融合の研究をしている。

取材・文/木原みぎわ 撮影/齋藤周造