だし巻きを作るコツ「特殊なレシピを使っているわけじゃない」

——だし巻き卵を上手につくる極意を教えてください。

一番重要なのは、火加減ですね。火の強さ、火と鍋の距離……もうこれは、繰り返し練習して、卵が固まってくる火の強さを感覚で覚えるしかないです。逆に、火入れの感覚さえ身体に染み込めば、他の料理にも応用できると思います。

次は、卵の性質を理解すること。卵って、発注ごとに必ず個体差があるんです。黄身と白身の比率によって、だし巻きの“濃さ”が変わります。黄身が多いと、味が濃いだし巻きになりますし、白身が多いと、ふっくら仕上げやすくなる。

あと、だし巻きでは出汁を包むように巻くことが重要なのですが、白身が多いと、たっぷり出汁を入れて巻くことができます。

あと、鍋に一滴でも水や出汁が付いたらアウト。一瞬でも水や出汁が鍋に触れると、そこから2〜3回くらい油をなじませ直さないと、鍋がよい状態に戻りません。だからこそ、出汁は必ず包み込むように巻いていく必要があります。

逆に、油がちゃんと馴染んでさえいれば、鍋なんてなんでもいいんです。100円ショップのものでも、ちゃんと作れます。飲食店のように、1日に何度も繰り返し作るなら、「錫銅鍋」がいいと思いますけどね。

取材当日も、慣れた手つきでだし巻き卵を作ってくれた(写真/集英社オンライン)
取材当日も、慣れた手つきでだし巻き卵を作ってくれた(写真/集英社オンライン)

——そのほかにもポイントがあるんですか?

いや、もうホンマにこれだけです。特殊なレシピを使っているわけじゃない。でも、これをひたすら身体と感覚で覚える。そうすることで、艶があってシワがない、箸を入れた瞬間にハンバーグから肉汁がこぼれるかのように出汁が溢れ出す、僕のようなだし巻き卵が作れるようになります。

とはいえ、僕のだし巻き卵は、簡単には真似できないだろうという自信もあります。似たようなものなら作れると思いますけどね。

——だし巻き兄さんにとって、だし巻き卵とは?

うーん……「すべての日本料理の基礎」ですかね。鍋の使い方、卵の性質を理解すること、火加減……こういったことって、すべての料理に共通していると思っています。

それに、日本食の魅力でもある“出汁”が包み込まれている。だから、だし巻き卵は日本が胸を張って誇れる料理だと思います。

興味を持った方は、一度大阪のお店に訪れてみては?(写真/集英社オンライン)
興味を持った方は、一度大阪のお店に訪れてみては?(写真/集英社オンライン)

——今後の活動において、目的や目標はあるのでしょうか?

現在はYouTubeでも動画を投稿していますが、これからはもっと世界に向けて発信していきたいと思っています。日本食は世界的にも評価されていると思うんですが、作ることは日本人にしかできないんじゃないかと僕は思っているんです。

それに、「だし巻きのポイントを教えてほしい」というコメントもたくさん届いているので、今後は講習会の開催も予定しています。一般の方はもちろん、プロにも教える場を作って、日本の料理全体のレベルを底上げしていきたいですね。

あと、だし巻き卵って、居酒屋の定番メニューじゃないですか。最近、「鳥貴族」が韓国で行列ができるほど人気だと聞いたんですが、僕もだし巻きを通じて、世界に居酒屋文化を広めていきたい。そのときは、“技術にこだわる居酒屋”がいいですね。

——それはなぜでしょう?

近年、“居酒屋のファストフード化”が進んでいると感じていて。もちろん、海外でも気軽に出店できるのは悪いことではありません。でも、せっかくなら日本の技術と一緒に居酒屋文化を届けたい。

そのための“技術を底上げする教育の場”を作りたいと思っています。まさに「だし巻きを世界へ」という信念で、今後はもっと積極的に活動していきたいですね。

(写真/集英社オンライン)
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班