1年間の獄中生活を送ることになった王石氏

興味深いことに、詳しく調べてみると、王石氏は天安門事件にかかわっていたとされることがわかった。米『ワシントン・ポスト』紙の記事にこのような記述がある。

1989年、王石はどん底に落ちた。その年の5月、100万人以上の人々が北京をはじめとする中国の各都市の通りに集まった熱狂的な日々にあって、中国万科の王社長は、自由を求める行進に従業員を率いて参加した。
この行進によって、彼は1年間の獄中生活を送ることになった。王は、当時7才だった娘が月に一度、妻と一緒に刑務所に通っていたことを思い出した。母は娘に父が刑務所にいることを告げず、ただ叔父に会いに行くのだと言った。刑務所で娘は犬と仲良くなった。刑務所の規則で、娘を施設内に入れることはできなかった。
「だから私は犬を連れた叔父さんになったんです」
王石はそう言いながら苦笑いを浮かべた。
(中略)王石は政府に反対する政治運動に参加したことは間違っていたと言う。
「私には、政治よりも重要な株主に対する責任があります」彼は言う。
「大企業の最高経営責任者が、従業員を率いて政府に対する政治的抗議を行うのは、あまりいいことではありません。私は完全に自由な人間ではないのです」(同紙1999年6月4日付)

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
写真はイメージです(写真/Shutterstock)

その9年後、『ニューヨーク・タイムズ』紙が掲載したインタビュー記事では、王氏はさらに天安門事件との距離をとった。

現在、王はその行為(デモに参加したこと)を知らないというのみならず、スポークスウーマンを通して、そのようなことがあったことも否定している。
王氏の名誉がどのように回復されたかは不明である。しかし、天安門事件の後、中国の支配者たちは、今日までこの国を縛る不文律の社会契約を結んだ。あなたたちが善良な市民のように振る舞い、政治を私たちに任せてくれるのであれば私たちはあなたたちが豊かになるのを助ける、というものだ。(同紙2008年4月6日付)

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
写真はイメージです(写真/Shutterstock)