日本人にはないタイ人男性の魅力
――ずばり、駐妻はなぜタイ人と不倫してしまうのでしょうか?
閉塞感や淋しさ、ままならなさを感じているというのが大きいと思います。私自身も、孤独や虚しさに嵌まり込んでしまった時期がありました。そういった女性の抱える辛さや、心が動く瞬間については、深く考えて、この作品にも書きました。
タイは仏教の国なので、タイ人男性はお母さんをはじめ、とにかく女性に対してマメで優しいです。彼らのそういうところは、日本人女性にとって新鮮で魅力的に映るかもしれません。
風邪を引けば仕事そっちのけで、おかゆや薬を買って来てくれるそうですし、連絡も頻繁で「今、何してるの?」「お昼は何を食べたの?」と常に関心を向けます。荷物は持つし、家事も育児もする。「お母さんが、妻が、彼女が、ごはんを作るのが当たり前」という圧がない。
狭い日本人社会という特殊な状況で、悩みがあってもなかなか話せず、孤独で息が詰まって、子どもを寝かしつけたあとなぜかわからないけど涙が出てくる、みたいな生活を一年二年続けたある日、にこにこと優しく細やかに接してくれる相手が現れたら、きっと、気持ちがホッとして心が動くこともありますよね。
とはいえ、別れるときに「旦那にバラす」と脅された駐妻の話も聞きましたし、夫が日本に出張で一時帰国しているときに不倫相手を自宅に入れたら、金目のものや夫のスーツまで持っていかれ、音信不通になったというケースも聞きました。
――一木さんはタイで9年間暮らした経験をもとに、不倫や風俗だけではなく、人身売買や管理売春、そして自死など、かなりハードなエピソードも小説で書かれましたが、これらを通じて、最も伝えたかったことは?
世界のどこにいても、駐妻でもそうでなくても、性別年齢国籍関係なく、思い詰めて孤独を感じて居場所がなくなってしまったら、人はいつだってもろく危うい存在だと思います。
となりにいても違う国にいるみたいな淋しさをおぼえたり、共通言語があっても通じ合えずに絶望したり。そういう状況をどう乗り越えていくのか、あるいはやりすごすのか。この小説がそれを考えるきっかけになったらいいなと思います。
取材・文/集英社オンライン編集部 写真/わけとく
<プロフィール>
一木けい
1979年、福岡県生れ。2016年、「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞。デビュー作『1ミリの後悔もない、はずがない』が話題となる。他の著書に『愛を知らない』『全部ゆるせたらいいのに』『9月9日9時9分』『悪と無垢』『彼女がそれも愛と呼ぶなら』などがある。最新作『結論それなの、愛』が絶賛発売中。