剣と刀の両方の特徴を併せ持つ剣
「剣の先端に”変な漆の突起”が出てきたんです。剣には漆が装飾されていて、木の部分が腐ってしまっていても、漆の部分が残っているので、剣の元の形がわかるんです。そのときに『これは“石突”(剣を納めるサヤの先の部分。剣を立てて置くときにサヤが直接地面に触れないようにする)ではないか』という話になりました。
その石突をクリーニングする様子を撮影していたんですが、研究所の皆さんが『すごい!すごい!』と興奮しているんです。私たちは素人なので何がすごいのかよくわかりませんでしたが、その雰囲気だけで私も興奮してしまいました」
このとき、発見された石突は長さ18センチほどで、古墳時代4世紀の剣から見つかったのは初めてのことだった。
さらに、剣の持ち手の先端である“ツカ頭”はL字型をしていることがわかり、持ち手の刃に近い部分である“ツカ縁”には突起があることも確認できた。
ツカ頭がL字型をしているのはその後の刀の特徴である。つまり巨大蛇行剣は、剣と刀の両方の特徴を併せ持つ剣でもあったのだ。
「テレビのニュース報道などでは、『奈良県の富雄丸山古墳から“国宝級”とも思われる巨大蛇行剣が発見されました。この巨大蛇行剣は日本最古・最長の蛇行剣で、石突がある剣としても、剣と刀の両方の特徴を合わせ持つ剣でも最古です』などと一瞬で紹介されてしまいますが、そこに至るまでには、ニュースでは伝えきれなかった研究者たちの熱く、地道な作業の積み重ねがありました」
巨大蛇行剣の発掘から、新発見の発表までの間に何があったのか。研究者は何を考えていたのか。そこに密着したドキュメンタリー『巨大蛇行剣と謎の4世紀』(監督・山崎直史)が、3月14日から始まる『TBSドキュメンタリー映画祭2025』で上映される。
そこには、ニュース番組などでは紹介されにくい現場の地道な作業や興奮する人々の姿などが映っている。そして、謎の4世紀を明かす鍵が隠されている。
実は、謎の4世紀の話はこれで終わりではない。まだ巨大蛇行剣の意味も解明されていないし、そもそもこの蛇行剣が出てきた円墳に被葬されている者が誰なのかもわかっていない。
おそらく日本最古・最長の蛇行剣が埋葬された人物は、古代日本史上でも特筆すべき実力者であったのだろう。女王・卑弥呼と倭の五王をつなぐ人物とも考えられるのだ。
さらに、その後この富雄丸山古墳からは銅鏡3枚も見つかっている。
日本古代史に残された「謎の4世紀」の謎は、果たしてどんな結末を迎えるのか。それを明かす旅は、今、始まったばかりなのだ。
取材・文/村上隆保
「巨大蛇行剣と謎の4世紀」は3月14日(金)より6都市にて順次開催。
詳細は公式HP
https://tbs-docs.com/2025/title/06.html
監督・山崎直史 1979年生まれ。2004年にTBSテレビ入社。報道局社会部を経て、『Nスタ』『news23』などのデスクを経験。JNN衆院選開票特番『選挙の日2121』でプロデューサーを務める。2022年から『報道特集』のディレクター。