飲食店のピークタイムは鉄火場のような忙しさ
4月上旬、20代の女性記者が向かったのは都内の日本料理店。大手スキマバイトサービスA社のアプリで見つけたこの求人は、混雑がピークとなる午後7時30分から2時間、配膳補助やドリンク作り補助などの業務で、報酬は東京都の最低賃金(1113円)よりわずかに高い時給1200円という条件だった。
お店に到着すると宴会が盛り上がる時間帯ということもあり、店内は喧騒に包まれていた。60代くらいの女性従業員に声をかけると「A社さん来ました~」と大声で店長を呼ぶ。
数分して現れた店長に「スマホでQRコードの読み取りをしてください」と言われ、まずはA社のアプリで「出勤確認」をした。続いて店長が早歩きでロッカールームへと案内してくれる。制服に着替え、いよいよ厨房へ。ちなみに、制服には名札が付いていたが、自己紹介する暇もなく、業務中、従業員らは基本的に記者を「A社さん」と呼び続けた。
「ビール10本追加!」
「鍋ひとつ足りない!」
「デザートもう出しちゃって!」
厨房ではそんな指示が大声で飛び交い、着物姿の女性スタッフが走り回る鉄火場状態だった。その一角で店長は布巾を記者に渡し「これで洗った食器を拭いて。拭いたらこの棚に種類ごとにしまって」と早口で説明する。これが今日のメインの仕事らしい。
作業は単純だがそれほど簡単ではない。洗われてかごに山盛りにされた食器をひとつずつ拭いて、棚にずらりと並んだケースにしまっていくのだが、日本料理の食器は用途別に細かく分かれていて、どの食器をどこに収めるか、頭の中に入っていなければスムーズにできる作業ではない。
食器を収める場所を探して厨房をウロウロすると、パートらしき60代くらいの女性から「それここ!」「こっちじゃない!あっち!」と鋭い指示が飛ぶ。
そんな騒ぎの中でも、パートらしき仲居さんたちは宴会客の動向を冷静に分析していた。
「お客さんたち、ビールばっか飲んで全然食事に手をつけないの。お皿下げられなくて困るわぁ」
「せっかくの食事なのに全然食べてなくてもったいない!」
この先の仕事の段取りを気にしながら、料理に手がつけられない様子に心を痛めている様子だった。