ジャズアレンジだから世界中に響いた
作詞者の永六輔さんからこの歌詞をもらった作曲者の中村八大さんは、ヨナ抜き音階で、ジャズアレンジにした。ヨナ抜き音階は童謡によく使われる、ドレミファソラシドからファとシを抜いた音階だ。
そのことにより子どもやお年寄りにも親しみのあるメロディーになったのではないか。日本のこれまでの演歌は泣けるマイナー調が多く、洋楽は明るいメジャーコードが多い。
永六輔さんは、著書『上を向いて歩こう 年をとると面白い』の中で次のように語っている。 中村八大さんは、最初はメジャーコードで作曲し、「幸せは雲の上に」からマイナー調に変化させたあと、またメジャーに戻っている。この沈んで明るくなるという曲の構成が、気持ちが上向きになり良かったのではないか、と。
私たちは歌詞だけでなく曲調によって泣けたり、前向きになったりしているのだ。
この曲のすごいのは、牧歌的なバラードや童謡にせず、ジャズアレンジにしてモダンに軽やかにしたところだが、さらにさらに、坂本九さんの歌い方、びっくりするくらい鼓膜を圧迫しない。
同じ歌詞でも、もしべたべたのバラードで、感情たっぷりに歌い上げるメロウなボーカルがついていたら「SUKIYAKI」というタイトルで世界でヒットすることも、多くの日本人の心を打つこともなかったと思うのだ。
坂本九さんの独特の歌い方について、永さんは、「(坂本さんの)ご兄弟はみんな三味線の名手で名取の方もいます。『この子は三味線で育ててきたのに、中学に行くようになったらギターを持ってロカビリーなどやかましいことをして』というのがお母さんの言葉でした」と書いている。
坂本さんは、邦楽が日常的に鳴り、唄われる家で育ったのだ。
この人はロックシンガーでした。
しかし、あの人の歌い方を一度、じっくり聞いていただくとわかるんですが、完全に邦楽の歌い方なんです。(中略)『♪ふへほむふひいてあはるこおおほほ』と聞こえてきませんか?
あれは邦楽の歌い方なんです。
新内(しんない)、常磐津(ときわづ)、端唄(はうた)、これが全部彼のロカビリーのなかに入っているんです。同じことですが、さだまさしもそうです。谷村新司もそうです。
伝統として受け継いできた日本の歌い方が、いま、歌っている人たちの歌のなかに生きているということ、本人たちも気づかないままに伝統を受け継いているということ、これがとても大事なことだと思います。
永六輔『上を向いて歩こう 年をとると面白い』(さくら舎)より
なるほどあの歌い方は邦楽からきているのかと、環境の偉大さを知ったのだった。
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