コメ作りの年間200万の赤字を給料で補填していた 

「もともと親父は専業農家で俺は会社員やってたんだけど、20年以上前に親父が亡くなったときに農業を継いだんだ。だからしばらくは兼業で、定年退職するまではいわゆるサラリーマン農家ってやつだった。

50年前の親父の時代は、専業のコメ農家でも食っていけたんだが、今はとてもじゃないが食べてはいけない。俺のところは700俵(42トン)収穫できるから、個人レベルでは規模は大きい方だけど、兼業時代からずっと年間マイナス200万円くらいだったよ。

だから、サラリーマンで稼いだ給料を米作りにかかる費用に充てていたんよ。コメ作りで出た赤字分をサラリーマンの給与所得と損益通算すれば還付金が戻ってくるから、兼業ならなんとかやっていけるレベルだ」

茨城県筑西市のコメ農家の岩見正道さん(75)(撮影/集英社オンライン)
茨城県筑西市のコメ農家の岩見正道さん(75)(撮影/集英社オンライン)
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年間200万円もの赤字を給与で補填してまで米作を続けたモチベーションは何だったのか。

「はっきり言っちまえばただの道楽だ。趣味がゴルフの人が金かけてゴルフやるのと一緒。俺の場合は、体を動かして健康維持にもなってるし、これで金を儲けようなんて思ってない。

コメ作りが楽しくてやっているわけでもなくて、まあ、俺ら世代だと代々の先祖から受け継いだって思いもあって、そういうのは大切にしなきゃいけないって考えがまだあってさ……。だから体が動かなくなるまではやろうって思ってるよ。

ただな、ここまで利益を出せないってなってくると、サラリーマンやってる息子に『コメ農家を継げ』とは間違っても言えないな。だから俺の代で終わりかと思ってる」

写真はイメージです(PhotoACより)
写真はイメージです(PhotoACより)

30キロ5万円になって、やっとサラリーマンなみの生活

岩見さんは作ったコメをJAには出さず、米問屋と取引をしている。

「去年の『コメ騒動』以降は問屋から30キロ2万円くらいの金額で買ってもらったけど、それまで何十年もだいたいその半額くらいの値段で推移してたからな。

若い子がコメ農家専業で普通のサラリーマンくらいの生活をしたいとなると、(買い取り価格が)30キロ2万円でも厳しいよ。田んぼの規模にもよるから一概には言えないけど、個人でやるなら30キロ5万円くらいになったとしたら年収500万円くらいの生活ができるんじゃないかな。

JAや米問屋は買い取った金額にプラスするだけだから儲かるんだよ。彼らが自分でコメを作らないのは儲からないのを知っているからさ。これまで名だたる大手企業が米作に参入してこなかったのは儲からないってわかってたからだ。

米の買い取り価格が安かったわけだから、規模が大きくなったところでたいした利益は出ないんだよ。それにコメ農家が年々減少しているから、少ないパイから利益を出すために農機具メーカーはどんどん値段を吊り上げていく。

コメの世界においては生産者だけが儲からないって感じだな。まあ農業全般そうなんだろうけどな」

価格がどんどん上がっていく農機具(PhotoACより) ※写真はイメージです
価格がどんどん上がっていく農機具(PhotoACより) ※写真はイメージです