「コメ農家は年々減少しているわけだからそりゃ足りなくなるよ」
政府の決めた備蓄米放出についてはどんな思いを抱いているのか。
「投機目的、買占めと、いろいろな要素があるのはあるんだろうけど、そんなのは微々たるもんだろう。政府も『もうコメが足りません』って言っちゃえばいいのにね。ただただ生産量が減ってコメがないってだけの話だと俺は思ってる。
もちろん消費者がパニックを起こすから国もそんなこと言えないだけで、本当はそういうことなんだと思うよ。コメの年間生産量が700万トンって言ったって過去から見れば半分近くと大幅に減っているわけだ。そのうえでコメの需要は上がっている」
訪日外客数、いわゆるインバウンドが昨年約3680万人と前年比4割増で過去最高を記録した日本では、コメの需給バランスも急激に崩れたようだ。
「外国人観光客が殺到して来てみんながコメを食いたがる。それに高品質の日本米は人気があるから海外への輸出も増えている。そういった需要が増えている中、コメ農家は年々減少しているわけだからそりゃ足りなくなるよ。
それにこれからコメ農家を増やそうにも、サラリーマン並みの年収を得るのが大変なのはさっき言った通りだから。
国の補助金を活用することもできるけど、例えばトラクターを買うために補助金を受けようとすると、条件として飼料用米や蕎麦などを作ったりしなきゃいけなくなる。コメだけじゃなくて何品目も作らなきゃいけなくなるんだよ」
コメだけでも赤字なのに、他の作物にまで手を広げたら赤字が拡大するだけだ。
「そうなると補助金もらってもマイナスだな。だったら大規模にと思うかもしれないけど、そうなれば設備代や人件費が発生する。やっぱりそこに米価が追いつけないって話になっちゃうんだよ。
今後もコメの値段が上がり続けるかどうかはわからないけど、少なくとも備蓄米の放出で落ち着くことはないと思うよ。本当はJAとか米問屋とか間に入れず、農家と消費者が直接やり取りするのが一番いいと思うんだけどさ。
このままコメ農家が減っていけば、将来的には金持ちは直接農家に依頼して日本のコメを作ってもらって、それが出来ない人は輸入米を食べるなんてことにもなりかねないと思う。それはもうコメだけの話ではなくて、農業や漁業など第一次産業全般に共通することだと思うけどさ。
俺はもうコメでお金を儲けようなんて思ってないし、最悪、自分たちが食べられる分のコメだけ作れればいいんじゃないかと思うしな。
20年近くコメの値段は安いままだったわけだし、そういう風に思うコメ農家も多いんじゃないかって思うよ」
岩見さんのように、会社勤めの給料を補填してようやく成立する兼業農家ひとりひとりの努力がこの国の米作を支えてきたが、それも限界ではないか。日本の農業政策を考え直す時が来ている。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班