中国経済は本当にオワコンなのか? 米国の経済制裁にも屈しない中国製造業の「打たれ強さ」が招きかねない激しい貿易摩擦への危惧
不動産価格の下落や若年失業率の増加など、これまで成長を続けてきた中国経済の低迷が囁かれて久しい。中国経済は本当にこのまま衰退していくのだろうか? 米国の経済制裁が招く混乱とは?
中国の経済事情に詳しいジャーナリストの高口康太氏による著書、『ピークアウトする中国「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界』より一部を抜粋、再構成し、中国経済の「打たれ強さ」について解説する。
ピークアウトする中国 「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界 #3
中国の「打たれ強さ」
ただ、このチャンスに大量のプレイヤーが参入する現象は、まさに「殺到する経済」に他ならない。この「殺到する経済」と「需要拡大型の産業政策」が結びついた結果、EVや太陽光パネルで中国は圧倒的な世界シェアを得るにいたった。
レガシー半導体の分野における中国の躍進は、かなり高い確率で実現する未来だろう。米国の制裁がレガシー半導体における中国台頭に結びつく──このような中国の「打たれ強さ」も、中国経済の未来を占う上では必須の要素である。
このような状況を踏まえると、「需要拡大型の産業政策」と「殺到する経済」の結びつきによる経済成長のパターンは、非先端の半導体産業においても働いている可能性がある。
そしてそれは、近年の米国による中国の半導体産業を対象とした厳しい制裁措置に対する、中国の製造業のレジリエンス(打たれ強さ)を高めることにつながっていると考えられる。
こうした「打たれ強さ」は中国の強みでもある一方で、過剰生産能力が常に温存され、その製品が海外に輸出されることで激しい貿易摩擦を引き起こすことにもつながりかねないという側面がある。
写真/shutterstock
ピークアウトする中国 「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界
梶谷 懐 (著), 高口 康太 (著)
2025/1/17
1,210円(税込)
256ページ
ISBN: 978-4166614813
「2020年新書大賞」にランクイン
『幸福な監視国家・中国』の著者2人による第2作目!
不動産バブルが崩壊し、今世紀最大の分岐点を迎えた中国経済。
このまま衰退へと向かうのか、それとも、持ち前の粘り強さを発揮するのか?
『幸福な監視国家・中国』で知られる気鋭の経済学者とジャーナリストが、ディープすぎる現地ルポと経済学の視点を通し、世界を翻弄する大国の「宿痾」を解き明かす。
◎「はじめに」より
中国経済に関する書籍はしばしば、楽観論もしくは悲観論、どちらかに大きく偏りがちである。
そうした中で本書の特徴は、不動産市場の低迷による需要の落ち込みと、EVをはじめとする新興産業の快進撃と生産過剰という二つの異なる問題を、中国経済が抱えている課題のいわばコインの裏と表としてとらえる点にある。
なぜなら、これら二つの問題はいずれも「供給能力が過剰で、消費需要が不足しがちである」という中国経済の宿痾とも言うべき性質に起因しており、それが異なる形で顕在化したものにほかならないからだ。
「光」と「影」は同じ問題から発しているのだ。