足元がおぼつかないなかで水産事業を強化
赤字の主要因になっているのが水産事業だ。SANKO MARKETING FOODSは2023年9月に伊豆半島の下田の漁業者から、漁獲や魚種、相場にかかわらず全量買取する取り組みを開始。2024年6月末時点で計5隻、月間漁獲高目標値3.5トンとし、鮮魚の仕入力を強化した。
これは、捕獲から販売までをシームレスに提供するという新たな取り組みだ。水産加工から販売までの仕組みはすでに整っていたため、一次産業へとリーチしたのだ。それが顧客への付加価値になるというものだった。2024年7月には千葉市地方卸売市場の仲卸業者と資本業務提携契約を締結し、千葉エリアでの販路・流通機能も加えた。
しかし、水産事業は船団形成コストなどが重荷となり、2024年6月期の水産事業は3億2200万円の赤字を出している。期初予想では2600万円の黒字だった。飲食事業そのものは1億円を超える黒字で着地をしている。
すなわち、顧客への付加価値を高めようと川上へのアプローチを仕掛けたあまり、そのコストの増加を本業で抑えきれなくなっているのだ。
SANKO MARKETING FOODSの一次産業を強化するという取り組みそのものは否定されるものではない。疑問に感じるのはその進め方だ。かつての主力店舗だった大型店「金の蔵」は業態転換ではなく、退店によって縮小させた。撤退するのには退去費用が必要で、大胆な構造改革が必要となる。コスト負担が重いのだ。
一方で、路面店が中心の「アカマル屋」を新規出店していた。路面店は人気があるために物件を見つけ出すのは容易ではない。2023年6月期から2024年6月期はそうした経営のかじ取りをする難しい時期にさしかかっていた。それにもかかわらず、漁獲や魚種、相場に関係なく全量買取するという契約を進めたのだ。
居酒屋に来店した顧客にとって、独占契約した漁業者から直接仕入れた鮮魚の料理というものに、どれだけの付加価値を感じるだろうか。大衆居酒屋の来店客が重視しているのは、単純に安くて美味しいものであるはずだ。
かつて「はなの舞」を運営するチムニーも鮮魚の直接調達にこだわり、居酒屋のブランド力を強化しようとしていた。しかし現在は、インバウンドや修学旅行需要の獲得など、セールスを強化している。
SANKO MARKETING FOODSは2023年4月、MEGAドン・キホーテ本八幡店内に「サカナタベタイ」という鮮魚店をオープン。さらに経営破綻した東海エリアの飲食店9店舗を2023年12月に承継した。フードコートで魚介料理を提供する店舗だ。
その裏側で、資金面で機関投資家に頼っていることが気がかりだ。鮮魚の強化を進めた先で黒字化ができなかった未来は、暗いものとなるはずだからだ。
取材・文/不破聡