10万人超のロシア避難民の影響で家賃が倍増

そんな混乱の中、12月14日に大統領選挙が行なわれた。ジョージア史上初の間接選挙で、野党がボイコットを表明する中で実施。与党が擁立したカベラシビリ氏が選出された。

新大統領が選出された日、議会前には警察の放水車が配備されていた
新大統領が選出された日、議会前には警察の放水車が配備されていた

大統領選出後、首都にある議会前の集会に参加していた男性に意見を聞くと「カベラシビリ? そんなやつは知らない」と吐き捨てるように言い、別の男性は「あいつはただの操り人形だ。悪党が背後にいる」と苛立ちを隠さない。

政府がロシア寄りの姿勢を推し進めるのは、与党「ジョージアの夢」の創設者であり実質的な最高権力者とされるイワニシビリ元首相が政界の黒幕として君臨しているためだ。ソ連崩壊後、ロシアで巨額の財を築いたイワニシビリ氏は、絶対的な権力を維持するため、欧米の干渉を避け、ロシアとの関係を深めているとみられる。

集会に参加していた学生のリザさんは、真剣な表情で訴えかける。

「抵抗をやめれば、明日にはもっとひどい状況になっています。今後、政府は言論の自由や集会の自由を制限するでしょう」

学生のティモさんも同調する。

「EUに加盟し、よりよい教育を受けることが私たちの国の未来を保証する唯一の方法です。しかし与党は自分たちの金と権力のことしか考えていない」と話す。


「いまの政府は、選ばれた政府ではなく、自分たちで政府になることを決めただけで、断じて認められません。私たちは進歩的なヨーロッパの国のひとつでありたい。そのために集まり、声を上げています」と話すファニカさん(16)

「いまの政府は、選ばれた政府ではなく、自分たちで政府になることを決めただけで、断じて認められません。私たちは進歩的なヨーロッパの国のひとつでありたい。そのために集まり、声を上げています」と話すファニカさん(16)

 ウクライナ侵攻の影響はジョージアの抱える矛盾を浮き彫りにした。2008年のロシアによるロシア・ジョージア戦争以降、政府はロシアとは公式には断交してきたものの、経済や人の流れの結びつきは断たれていない。

その結果、自国の戦争を避けるロシア人の避難先となり、2022年に始まったウクライナ侵攻後には10万人を超える移住者を受け入れることとなった。物価の安さやロシア語が通じる環境、ビザなしで1年間滞在できることが主な理由だ。

特にIT技術者などの高所得者層の流入が不動産価格を急騰させ、首都トビリシでは家賃が倍増。そのせいでジョージアの多くの学生や地元住民が住居を失うという事態に陥った。こうした状況が続いたことで、国内でのロシアへの嫌悪感はいっそう深まっている。

一方、抗議運動にすべての人が賛同しているわけではない。私が宿泊していた宿のオーナーは「毎日のデモにはうんざりだ。隣はロシアだろう。敵対して戦争をするわけにはいかないだろう。ジョージアのような小さな国はうまくバランスを取るしかないんだ」とため息をつく。

ジョージアという国が存在し続けるためにはロシアという大国とのつながりを切り離せないというジレンマがあるようだ。