アメリカで銃犯罪が多いのは「銃があるから」ではない

②攻撃・防御判別性 「曖昧さ」は「強さ」よりも恐ろしい

攻撃・防御判別性とは、相手の行動が攻撃を意図しているのか、防御を意図しているのかをどれだけ明確に見分けられるのかを表す指標です。要するに、相手の意図がどれだけはっきりと認識できるかどうかです。基本的に、相手の意図がはっきりわかるほど戦争は起きにくく、曖昧なほど起きやすくなります。

今度は、アメリカ社会とスイス社会を使って簡略化してみましょう。どちらの社会でも一般人が銃を持てる点は同じですが、違うのは、薬物の蔓延度です。アメリカでは薬物依存症者が多いため、相手の意図の判別が困難ですが、スイスでは容易です。これがアメリカを危険に、スイスを安全にしています。

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アメリカでは薬物依存症者が多く、他人が何を考えているのかがわかりにくくなります。これによって、誰かが銃を持っていたら、その人が攻撃するつもりなのか、ただ防御のために持っているのかがわかりにくく、人々が不安になりやすいのです。この不安から、さらに多くの人が銃を持たなければ安心できなくなり、連鎖的に銃所持が広がります。

アメリカの警察官が容疑者をその場で射殺しがちなのも、容疑者の意図がわかりにくい中で自らを確実に守るためです。アメリカの警察官は、容疑者に近づくときによくポケットの拳銃を握ります。

容疑者にいつ銃で撃たれるかがわからないので、銃を向けられたら即座に射殺するためです。昼よりも夜の射殺率が高いのも、視認性が低く、相手の挙動がわかりづらいからです。

一方でスイスでは、アメリカと同じくらい銃所持が一般的ですが、薬物依存症者がほとんどいない上に、銃所持には非常に厳しい取り決めがあり、その人に判断能力や犯罪歴があるかどうかが徹底的に管理されています。そのため、たとえある人が銃を持っていたとしても、その人が何を目的にそうしているのかが比較的わかりやすいのです。

スイスではアメリカと違い、銃乱射事件は皆無ですし、他人に銃で撃たれる不安もありません。アメリカで銃犯罪が多い理由は、単に「銃があるから」ではありません。真の理由は、「他人に銃撃されるかもしれない」と不安を抱かざるを得ないその社会状況にあるのです。


写真/shutterstock

あの国の本当の思惑を見抜く 地政学
社會部部長
あの国の本当の思惑を見抜く 地政学
2025/1/24
1,980 円(税込)
336ページ
ISBN: 978-4763141880

地形的に見ると、アメリカもロシアも中国も弱い。
だから、戦争をやめられない。


近年、「世界情勢を理解したい」という需要が増えています。
ロシアのウクライナ侵攻、パレスチナ・イスラエル戦争、中国の台湾・尖閣諸島・南シナ海での野心的行動など、ニュースで不安定な国際情勢にまつわる話題を見聞きしない日はありません。

国際政治を考える上で、まず見るべきものは何でしょうか?
歴史、文化、統計、報道——どれも重要です。
しかし、本書はそれが「地理」であると考えます。

ニュースを普段見ていると、外国首脳の発言や人々の意見ばかりが目に入ります。
それらを見ていると、世界情勢を動かしているのは「人間の意志」だとつい思いがちです。
しかし、人間の思考や行動は、私たちが思っている以上に地理に動かされています。
それも、気づかないうちに。

地理を基準に世界を眺めると、次のようなさまざまな事実が見えてきます。

●アメリカは広い海で隔てられるので「攻められづらい」国だが、同時に他国を「攻めづらい」国でもある
●ロシアはヨーロッパの大国と平らな地形で繋がっているせいで、領土を拡大し続けなければならない
●対立を深めるアメリカと中国は、実は国土や隣国との関係など、「似た者同士」である
●日本にとって朝鮮半島はユーラシア大陸との「橋」。朝鮮半島の安全を確保することは伝統的な地政学的課題

寒い場所では、港が流氷で閉ざされて、貿易ができません。
「国を守ろう」と思っても、地形が平坦だとかなり苦労します。
地理が「檻」だとすれば、国は「囚人」です。
囚人に何ができて、何ができないかを知るには、まず檻の形を知らなければならないのです。

本書は、地政学動画において平均再生回数150万回という圧倒的な支持を得る著者・社會部部長が、不変の地政学の法則を解説する1冊。
「海と陸」というシンプルな切り口を中心に、これまで世界で起きてきたことの真の理由を知り、今の世界で起きていることを「自分の頭で考えられるようになる」本です。

【目次より】
序章 今、地政学を学ぶ意義
第1章 アメリカ 強そうで弱い国
第2章 ロシア 平野に呪われた国
第3章 中国 海洋国家になろうとする大陸国家
第4章 日本 大陸国家になろうとした海洋国家
終章 地政学から学べること

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