「スーパー中学生だった」時代の原動力を表現した『恋のスーパーパラシューター』
日本で手に入らない貴重なレコードをプレゼントしてくれる中学生を、センスのあるミュージシャンたちはみんな歓迎してくれた。
やがて親しくなったバンドの楽屋には、自由に出入りできるようになった。
ユーミンは、仲よくなったムッシュに頼まれて、何度かPXの売店でプロコル・ハルムの『月の光』など役に立ちそうなレコードを、本人の代わりに選んで買ってきたこともあった。
しかしGS熱が冷めてくると、絵も好きだったので東京藝術大学を目指すことに決めて、中学3年からは家庭教師がついて勉強しながら、御茶の水美術学院へも通うようになった。
自宅のある八王子、立教女学院のある三鷹台、美術学校のあるお茶の水、その三角形を往復する毎日が始まり、さらには文化人やミュージシャンのサロン的な役割を果たしていた有名なレストラン「キャンティ」のある六本木・飯倉界隈でも遊ぶようになった。
夜中にディスコへ行って朝まで踊り、始発電車で家に帰って、何もなかったように学校へ行ったこともあった。
そんな「基本は一匹狼。スーパー中学生」だった時代の行動力を支えていた気持ちの強さと一途さが、映像的かつファンタジジックに描かれたのが『恋のスーパー・パラシューター』である。
全体に静謐なタッチの楽曲が多いファースト・アルバム『ひこうき雲』のなかで、3曲目に収められたこの曲は、カタカナ単語の選び方や、「きっとうけとめて」という独特の言いまわしが歌詞としても新鮮だった。
そして歌だけでなくアレンジが独創的で、ティン・パン・アレーの躍動感ある演奏もまた聴きどころがいっぱいだ。
レコーディングでドラムを叩いた林立夫が、ユーミンをこんなふうに語っている。
「ユーミンは歌詞に入り込みすぎないんです。一歩引いた語り部というか、映像的っていうのかな。シーンを俯瞰する歌い方だから、リスナーは曲の中に自分を置くことができる。シンガーソングライターゆえの作家性もあって絶妙だった」
なお、『恋のスーパーパラシューター』というテーマは、陸軍時代のジミ・ヘンドリックスが、パラシュート部隊に所属していたことからヒントを得たらしい。
文/佐藤剛 編集/TAP the POP サムネイル/『Yumi Arai 1972-1976』(2004年2月18日発売、UNIVERSAL MUSIC)のジャケット写真
参考/引用
「BRUTUS」2018年3月15日号