高校時代がいちばん自分で自慰をしてました

難関国立大学を卒業し、一部上場企業に就職。さらには処女でSM嬢という彼女の生い立ちには、当然の如く興味が湧く。私は店に内緒で時間をかけたインタビューができないかと持ちかけた。「面白そうだし、謝礼が出るならいいですよ」という彼女とは、その場でラインの連絡先を交換し、後日の取材についての約束を取り付けた。

ちなみに、謝礼とはいっても大金ではない。こちらが提示したのは現金1万円であり、その金額であれば、わざわざ時間を取ってもらうことを考えても〝足代〟として許容される範囲内だと思う。

こうした流れでカオルとふたたび会ったのは翌々月のこと。都内某所のカラオケボックスで話を聞いた。その結果は事前に彼女の許可を得たうえで、とあるウェブサイトで〝処女風俗嬢〟へのインタビューとして紹介した。そこでは、順風満帆と思える人生を歩んできた彼女が、なぜ副業として風俗の仕事を選んだのかということを書いている。概要を記すと以下の通りだ。

一人っ子だった彼女の両親は小学生のときに離婚。いまは営業の仕事をしている母と一緒に暮らしている。離婚をしたとはいえ、両親の仲は険悪というわけではなく、これまでもおよそ3日に1度は父が家に来るという関係が続く。

受験をして中高一貫の私立女子校に進学したカオルは、自身を「腐女子だった」と振り返る。

「小学校時代からBL(ボーイズラブ)好きでしたし、そんな漫画のエッチなシーンを見ては、性的なことに興味を持ってました」

腐女子とは男性同士の恋愛を扱った漫画や小説が好きな女性のこと。自宅に一人でいることの多かった彼女は、小学校高学年で自慰を始めていた。

「小学校の頃からパソコンをやってて、家でアダルトサイトを見てたんです。現実の男の人のことはあまり考えたことなかったけど、サイト内で男性に攻められている女性の姿を自分に置きかえて、興奮してました」

「体を触られたりとかキスだとか、あんまり嫌じゃない」リクルートスーツで現れた処女風俗嬢・カオルの特殊な“事情” _3
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中高6年間を女子校で過ごしたカオルは、腐女子の度合いをより高めたと語る。

「べつに三次元(現実の男性)でなくてもいいなって思ってました。高校時代がいちばん自分で(自慰を)してました。ネット動画とかを見て、ほぼ毎日でしたね」

やがてストレートで首都圏の国立大学に合格した彼女は、同世代の異性が近くにいる環境に身を置くことになった。だがそこで、生身の異性とどう接していいのかがわからない。

「性欲はあるんですけど、それは外に向かってじゃなくて、あくまでも自分のなかで片付けることで解消してました。ネット通販で電マ(電気マッサージャー)を買って、自分用に使ってましたし……」

そんな彼女が大学1年のとき、ひょんなことから風俗での仕事を始めてしまうのだ。それは次のような流れだった。

#4に続く

写真/shutterstock

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著者が20年以上にわたる風俗取材で出会った風俗嬢たちのライフヒストリーを通して、現代社会で女性たちが抱えている「生と性」の現実を浮き彫りにするノンフィクション。

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