今、LOVEを歌い続けること
「同世代からの圧倒的な共感」のほかにもうひとつ、カナが大切にしていること。それが同時代性である。自身の世代にあわせ、時代にあわせ、共感を得る。ただ、この「時代性」については、少し補足が必要となる。
職人的にLOVE=恋愛をテーマにしたラブソングを歌い続けることは、はたして今の時代をとらえているのか、という疑問。
テレビドラマや映画、漫画などの物語において、かつては定番かつ必須だった恋愛要素に対し、多くの視聴者から「いちいち恋愛を絡めないでほしい」といった声が次々とあがっている現代。
2015年にリリースされた『トリセツ』の歌い出し、〈このたびはこんな私を選んでくれて どうもありがとう〉に胸がざわついた人も多いだろう。
選んで?? くれて?? だと???
また、冒頭に書いた「西野家」というのは、西野カナのファンクラブの名前である。なるほど、家制度……。根強い家父長制が解体されず、いつまで経っても選択的夫婦別姓の法案が通らないことは非常に由々しき事態である。
そのうえで、ここに明治安田総合研究所が行った「恋愛・結婚に関するアンケート調査」の2023年版がある。アンケートをなにより重要視するカナにとっても、これは見逃せない。
調査によると、「恋人は欲しいか」という質問に対して、およそ7割の人が「欲しい」と答えている。この数字はなにを表しているのか。現状であり、時代である。恋愛至上主義からの脱却が叫ばれるのと同時に、7割の人たちが恋人は欲しいという実情。
時代の感性を先取りし、先進的なメッセージを届けることがアーティストの本分だと思う人もいるかもしれないが、カナは違う。宇多田ヒカルが先行くトレンドを発信するパリコレだとしたら、カナはイオンのファッションフロア。今ここにあるリアルを歌い続ける。
そこで、NHK紅白歌合戦である。紅白が最も見られているであろうシチュエーション“大晦日の自宅”は、暮らしの最前線。カナの歌が届くべき場所だ。
紅白にとっても、年々視聴率が下がり続け、もはや“国民的”とは言えなくなりつつ今だからこそ、暮らしを指向するカナの歌が必要なのだ。
今年の紅白で披露することが決まっている、活動再開後にリリースされた曲「EYES ON YOU」の歌詞にはこう綴られている。
EYES ON YOU いつか消えてしまいそうで 儚い花のような LOVE
「EYES ON YOU」より
デビューから16年間、LOVEを歌い続けてたどりついたのは、その儚さだった。カナのLOVEが、いつまでも消えませんように……。
文/おぐらりゅうじ