ヌサ(幣柵)とイナウ(木幣)とは何か
神窓の外には、ヌサまたはヌササン「幣柵」と呼ばれる祭壇が設けられます。これは昔はそれぞれの家ごとにあったもので、ヤナギやミズキなどの木を削って作られたイナウ「木幣」が立てられています。
イナウはその家や地域で祀(まつ)るカムイに捧げるための贈り物であり、一本の背の高いイナウと背の低いイナウ数本がワンセットになって、一体のカムイに捧げられているので、その背の高いイナウの本数を数えれば、その家で何体のカムイを祀っているかがわかります。
平取町(びらとりちょう)では基本的に、ワッカウㇱカムイ「水のカムイ」、シランパカムイ「大地のカムイ=木」、ハシナウウㇰカムイ「枝幣のカムイ=狩猟のカムイ」、ヌサコㇿカムイ「幣柵を守るカムイ」の4つが祀られており、家によってはさらにその家系に関わるカムイが祀られます。
地方によって、もっとたくさんのイナウが立てられているところもあります。満岡伸一『アイヌの足跡』(1924年)によると、白老(しらおい)では9体のカムイに対するイナウが立てられていたそうですし、新ひだか町(かつての静内町/しずないちょう)で毎年行われているシャクシャイン法要祭では、12体のカムイが祀られています。
なお、シャクシャインというのは、1669年に起きたアイヌ対和人の最大の戦争である「シャクシャイン戦争」のアイヌ側のリーダーで、静内以東のメナスンクㇽ「東の人」の総大将だった人物です。毎年9月23日前後にシャクシャインの慰霊とともに、地元のアイヌの人たちの先祖供養が営まれています。
ヌサのイナウは大きな祭りの度に新しく削られて、古いイナウの前に立てられます。古いイナウはそのまま朽ちて行って、後ろに倒れていきます。
このヌサと神窓の間の空間は神聖な場所であるので、用もないのにここに立ち入ったり、ましてや人の家の神窓から中を覗くなどということは厳禁されています。もしそんなことをしたら、賠償の品を要求されることもあったと言われています。
文/ 中川裕